60.アキラ、両手に花

 馬車は、音を立てながら進んでいく。その音で気絶していたアルテシアが目覚める。




周りの状況を確かめながら、自分がなぜ気絶したのかを思い出す。




「確か、アキラ殿にアプローチをしている最中に、ウサギが出てそれから・・・」




と自分の行動を振り返り、気絶してしまったことの失態を思い出したようだ。




「アルテシア、目が覚めた?やっぱり、初めての人には刺激が強すぎるよね。ごめんね。」




僕はアルテシアに、自責の念を抱かせないように気遣う。すると、アルテシアは顔を赤らめ、




「申し訳ありません。皇国の姫でありながら、血が苦手なのです。アキラ様に、恥ずかしい所をお見せしました。」




自分の失態に対して謝罪してくるが、あまり気にしないようにと促す。そして、冷凍されているデカウサギを見ると、少し引き気味になりがらも、




「これが、先ほどの・・・」




と解体された肉片をまじまじと見る。そんなアルテシアにテラが声をかける。




「私も血は苦手ですけど、そのうち慣れてきますよ。そんなに気にしなくても大丈夫ですよ。」




その言葉にアルテシアはハッとした表情をして、テラの手をとる。




「ありがとうございます。テラさん、お優しいのですね。」




何やら友情が生まれている様子であった。




 そうしているうちに、暗くなってくる。今日の移動はここまでして、キャンプを張ることにした。




内臓肉は傷みやすいので、今日はこれを食べることにして、解凍する。アルテシアが、魔術でその肉を洗浄してくれる。




そして、テラがとってきた香辛料で下味をつけていく。その後、辺りから小枝を集めてきて、電流で火をつける。




火を見ているとなんだか落ちついてくる、そして、枝を肉に刺して、焼いていく。辺りに少し香ばしい匂いが漂ってくる。




その間、女性陣は談笑して、盛り上がっているようだ。




自分は焼きすぎないように、火の調整をしていく。どうやら、3人とも楽しそうにしている、話の内容は聞かないことにしよう。




そして、しっかりと火を通していく。




「もう、そろそろ良い具合かな。どう思う精霊さん?」




と精霊さんに焼き加減を聞いていみる。




「最適だと思います。」




そう答えてくれる。じゃあ、まずは毒見として最初に食べてみる。




うん、少し土臭い感じがするが、香辛料がそれを打ち消してくれていて、うまい。




3人に食事ができたことを知らせる。




「テラのおかげで、肉がおいしいよ。ありがとうねテラ。」




とテラにお礼の言葉を述べると、こちらに寄ってきてじっとこちら見ている。




ああ、撫でるって約束してたっけ、と思いだし頭を撫でる。




耳をひょこひょこさせながら、喜んで気持ちよさそうに目を細める。




すると、アルテシアもテラとは反対の腕に寄ってきて、じっとこちらを見ている。




そういえばアルテシアにも約束していたことを思い出し、頭を撫でる。顔を紅潮しながら、嬉しそうにしている。




今の状況はまるで、両手に花だなと思いながら、この状況を少し楽しんでいるアキラなのであった。

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