58.アキラ、テンパる。

 日差しが照りつけるが、爽やかな風が草木を揺らして、吹きぬけていく。




街道沿いの道の交通量は、王都と比べるとそれほど多くはなく、比較的スムーズに馬車は進んでいく。




こうも順調に進んでいくと、何もすることがなくゆったりな時間が流れていく。あくびが出てしまいそうだ。




「ふぁーーーーー。」




と大きなあくびをしてしまう。




隣のアルテシアはその様子を見てクススと笑っている。




完全に隣に人がいることを忘れていた。後ろの荷車を見ると、イリスとテラは昼寝中のようだ。




急にアルテシアがしおらしくなり、




「やっと・・・ふたりっきりになれましたわね・・」




と言ってくる。ハンターセンスもこれに少し反応する。




「ああ・・。そうですね・・。」




こういう時、どういった対応をすればいいかわからないので、非モテのような対応をとってしまう。




それに、アルテシアは何も言わずに、腕に抱きついてくる。




「フォオオオオオオオオオオオオオオオオ!?」




「宿主、落ちついてください。」




と精霊さんに諭される。




もう興奮しすぎてわけがわからなくなる。




ハンターセンス君もビンビンで、獲物に反応してらっしゃる。




「・・・ちょっと、待って。獲物!?」




 すぐに弓を準備する。




するりと、アルテシアの胸から、名残りおしくも腕を引っこ抜く。




すぐに、矢を構えて獲物を補足する。




少し大きめのウサギだ、いや、犬くらいある。




「ウサギ、デカッ!!」




一瞬戸惑うが、ハンターセンス君が意識を戻してくれる。




「そのまま動くな!!」




と大声で叫ぶと、デカウサギの耳が反応して、動きが一瞬止まる。




 その時にはもう矢は放たれていて、最高速度に近付いていた。




今回は、試しに電流も少々、矢に入れ込んでおり威力も上がっているはずだ。




矢の軌道は、当初は首部分を狙っていたが、少し逸れて頭部のこめかみ部分に突き刺さる。




そして、デカウサギの挙動は逃げようとするも、人形の糸がかまったように手足がバラバラに動き、そこに倒れ込む。




どうやら、電流がいい具合に神経に影響したようだ。




「えいっ!! やぁあ!! 」




と馬を走らせる。




デカウサギのそばまで来ると、馬車から飛び降り、首元にナイフを突き立てる。




血が噴き出す!! だが、もうこんなことでは、臆する僕ではない。




そのままでは、血が残ってしまうので、足元を持つ。うまく持ちあげようとするが、重い! 




例えるなら、これはいつも買っていた米の袋ぐらいあると実感する。




「どっこいっしょ!!」




といつもより重い身体を逆さにして、血を抜いていく。




「ドボドボボボボドボドボドボ・・」




と血が滴り落ちる。勢いが収まり始めるころには、少し軽くなっていくような気がしていた。




 そして、アルテシアに満面の笑みを向けると、彼女は白目を向いて気絶している。




遠目からは、きれいな顔立ちで涼しい顔をしているように見えたのだが、すっかり気を失っている。




「WOW!!これは刺激が強すぎたか!!」




と無垢な少女には、刺激が強すぎたようだったのを、後になってから後悔する。




「宿主の【KY】スキル値上昇、LV2となりました。」




と精霊さんの事後報告の声が、頭に響くのであった。

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