46.アキラ、釣る。
船は、2本のマストにそれぞれ、大きな三角形の帆がついていて、それが風受けて、船が進んでいく仕組みになっていた。
初めての船にテラは、しゃいでいる様子で、
「アキラさん、アキラさん、船ですよ船、船。」
と僕に興奮気味で、感想を言ってくる。
「よかったね・・・。テラ・・・。」
と父親になったかのような気分を味わう。なお、私は酔いで、それどころではないのであるが。
一方のイリスは、カルラさんと何か真剣に話しているようだ。時折、こちら見ては、考え込んだりしている。
向こうは、いろいろと大変なのであろう。なにか力になればと思いつつ、遠くの景色を見るのであった。
船にも慣れてきた頃、僕は釣りをしていた。
船に居たって、ぼぉーとしてるだけで、暇なのでなにしながら、酔いをまぎらわそうとしていたのである。
餌はパンである。
「精霊さん、釣りスキルってあるの?やっぱ、それも奇妙に分類されるのかな?」
と精霊さんに聞いてみる。その答えは、
「狩人と奇妙が作用します。宿主は、奇妙が人よりも高いので、きっと大物が釣れますよ。」
と精霊さんは励ます。
実際、異世界転移してるし、人より奇妙な人生と言えば、その通りである。
気を取り直し、試しにイーグルビューを使ってみると、魚影らしきものが、餌の周りに集まっていることが見てとれる。
竿を揺らし、魚を誘う。隣で、イリスとテラが興味深そうに覗く。3人でぼぉーとする。
「イリス、王都についてからの算段はあるの?」
と質問を投げかける。
「あるには、あるけどまだ不確実な部分もあって、どうしてもそこを、なんとかしなくちゃいけないの。」
表情を曇らせながら、イリスは答える。
「僕には政治のことはわかんないけど、イリスは信じるに値するってことだけはわかるよ。」
と照れながら言うとイリスは、少し嬉しそうに微笑んでいた。それに呼応して、竿がしなる。
どうやら、魚がヒットしたようだ。仕掛けをばらさない様に、慎重に魚のペースに合わせる。
格闘すること、数分、さすがに疲れてきたので、ここで仕留めることを決意する。竿を持ち上げて、魚をあげようとする。
それに反応したのか、魚が水中からすごい勢いで、海面に急浮上し飛び上がる!! なかなかのサイズだ。
その時こそ、狙っていたタイミング。魚は当然のごとく、海の中に戻ろうとするが、そうはさせない。
「精霊さん、それではお願いします!! 」
「御意。」
竿に電流が走り、魚は感電する。
イリスとテラは、呆気にとられているようだ。
魚釣り?違うよ、そんな娯楽じゃない。こっちは何が何でも、魚を獲る気でいるんだ。
持ってる力は全力で使わせてもらう。
感電した大物の魚を引き上げる。見た感じタイっぽい。
イリスはその様子を見て、何か思いついたようだ。
さっそく、カルマさんの方へ向かっていく。
あれ、もしかして変な入れ知恵しちゃった。そのことを後に後悔するのは、少し先の話である。
景色は昼とは一変、静寂が支配する夜へと様変わりした。僕たちの夕食に釣った、魚が皆に振舞われる。
一応、イリスにカチカチに冷凍してもらってから解凍し、カルマさんに剣で捌いてもらった。
「剣でこれを?」
と少し、呆れたが皆の笑顔のためと了承してもらった。
一応、精霊さんに寄生虫は、大丈夫かと聞くと、
「電気を流せば確実です。」
と、言われ電気を流す。これで、多分大丈夫なはずである。塩で味付けし、炙ったタイを味わう。
久しぶりの炙りに舌が喜ぶ。イリスたちも、食べてみたらおいしかったらしく、好評だった。
腹いっぱいになり、僕は大の字になって寝るのであった。
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