44.アキラ、潮を感じる。

 酔った。無理して高い場所に登るんじゃなかったと、僕は後悔していた。




しかし、人を助けたという達成感は、心地よいもので自然と笑みが、こぼれて体液もこぼれ出す。




道にモザイクの一線がかかる。テラに水をもらい、それで口を濯ぐ。




テラは背中をさすってくれて、だらしない僕に慈愛をくれるのである。




あなたは女神ですか?と内心思いながら、ありがとう、ありがとう、とお礼を言う。




酔いも収まり、のんびりと馬車に揺られながら、助手席に座り、景色を見る。




もはや、誰も助手席のことには、突っ込まなくなった。




もはや、ここは私の特等席となり、引いてくれている馬とも、意思疎通ができるようになった気がしていた。




そろそろ日も暮れて、馬も疲れを見せ始めた頃。




ここら辺で、野宿をすることにした。良い感じに懐いてくる馬の隣で寝ることにした。




 次の日も、朝早くから移動する。この馬とも最後の日と考えると淋しいものを感じる。テラのは、初めて海が見ることに対して、テンションが最高潮になっている。




「アキラさん、アキラさん、海ですよ! 海! 海! 」




海が見え始めると、目を輝かせ、僕も見るように促される。




無言で、その海原をじっーと眺めていると、この異世界の海は、元世界の海より、何十倍もきれいなことに気付く。




いつか、テラと一緒に海水浴でも、行きたいなと思いながら、遠くの景色を見ながら、暇を潰す。




風が潮の香りを運んでくる。




テラは、どうやらそれが不思議なようで、鼻をクンクンさせている。




僕も潮の香りを嗅ぎながら、これが海であることを実感する。




干し肉を食べながら、水平線の彼方を見る。




時折、舟らしきものが通り過ぎてゆく、段々とその数が多くなっていき、港町が近くなっていることを実感する。




あとどれくらいとカルラさんに聞くと、




「夕方くらいには、着くでしょう。そこで一泊し朝早くの船に乗って行きますから。」




と教えてくれる。まだ太陽は高い場所にあった。少し、荷車の方に移り、横になり、するとテラが膝枕をしてくれる。それに甘えて、ゆっくりと眠りへと落ちていくのであった。




 気がついたころには、日は地平線に近付いていており、船の往来も多くなり始めていた。




辺りに、家がポツポツと見え始めて、街道にも人が多くなり始める。




そろそろか、と思い外の景色を見る。ある者は、野菜を荷車に乗せて運び、ある者は鶏らしきものを鳥籠に詰め込んでいる。




皆の行く先は、同じである。それから数時間後、ついに最初の目的地、イーストフローへと到着する。




テラはフードを深くかぶり、僕の腕に身体を寄せている。初めての人だかりに少し怯えているようだ。




頭を撫でてやり、少しでも緊張を解す。そして、一行は街で一番大きな宿へと、入っていくのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る