第七章 答え
16
ツクツクボウシが夏を惜しまんばかりに鳴いている。まだまだ夏は続きそうだというのに。
夏休み明けの学校は、少し気だるかった。日常が戻ってきてしまうことと、
それは何も僕に限った話ではないようで、久しぶりの教室に入るとみんなぐったりとしていた。
僕は、机に突っ伏してる彼女の姿を視界の端に捉えながら、席についた。
あの日以来、僕は彼女とは会っていなかった。夏休みの間、彼女は
あの後、彼女が白兎の記事を書くと言い出したので、僕はからかった。
「へぇー、あれは僕に接触するための口実じゃなかったの?」
「
「それに?」
「
「そうだね。僕も楽しみにしてるよ!」
記事は出来たのだろうか……?
僕は気になった。
彼女に
しばらくすると、先生がやって来て、いつもに増して元気のない挨拶の後、ホームルームが始まった。ホームルームでは一時間目の始業式について少し話があり、すぐに廊下に並ぶよう言われた。
ホームルームが終わり、僕が廊下に並ぼうと席を立った時、ふと教壇の方を見ると、彼女が先生に呼ばれて何やら話をしているのが見えた。彼女は先生の話を聴いて、驚いているようだった。僕は何だろうと思いながらも、さほど気にせずに廊下に並んだ。
始業式が行われる体育館は、既にいくつかのクラスが集まりざわざわとしていた。次から次へと他のクラスも体育館にやって来た。
うちの高校の体育館は冷房が完備されているけれど、流石に全校生徒が集まってくると蒸し暑かった。
そのうち、
白兎の計画のお陰もあってか、二人とは再び仲良くなった。夏休みには三人でカラオケに行ったりして遊んだほどだ。
カラオケで、瀬戸に言われた言葉を思い出す。
「おい
「いや、まだだけど……」
「はぁ!?」
二人が驚いた表情で僕を見る。
「お前、早く返事しねーと別の男にとられるぞ!」
「あっ、俺が奪っちゃおうかな」
あははっと二人は笑った。
「で、実際のところお前はどう思ってるんだよ?」
カラオケの帰り道、深山と別れ、瀬戸と二人きりになってから訊いてきた。
「自分でも、よく分からない……」
「お前はあの時なんで断ったんだ?」
「それは、白兎に申し訳ないと思ったから……」
「だろ? でもあの音声聴いて、そうじゃないって分かったじゃん! それとも、まだそんなことで悩んでるのか?」
「……」
僕が答えられずに黙っていると、彼は少し笑って言った。
「自分の気持ちから逃げるなよ」
気がつくと、いつの間にか始業式が始まっていた。校長先生が壇上で話をし終えるところだった。いつもは長々と続くはずの校長の話も、今日はあっという間に終わったように感じた。
ふと、クラスの列の一番前に、
あれ? と僕は思った。クラスの列は出席番号順になっている。緒方さんは〝お〟だから、確かに前の方ではあるが、一番前にはならないはずだ。
なぜ一番前にいるのだろうか……?
校長先生が壇上から下りると、司会の先生が次に進めた。
「えー、続いて表彰に移ります。まずサッカー部……」
次々と、夏休み中に行われた大会などの表彰が行われた。何度も何度も拍手をして、少し手も疲れてきた頃だった。
「続きまして、新聞部の表彰です。緒方
えっ?
僕は驚いた。
今、緒方さんが呼ばれた?
夏休み中にコンクールに応募してたのだろうか。
一番前にいた彼女は、立ち上がって壇上へ上がった。少し緊張しているようだった。
彼女が校長先生の前に立つと、校長先生は賞状を読み上げ始めた。
「賞状 最優秀賞 緒方光莉殿
あなたは第三十回全日本新聞コンクールにおいて頭書の通り優秀な成績を収められました
よってその栄誉を称えここに賞します
令和×年八月二十五日 ××新聞社社長
そう言って、校長先生は彼女に賞状を渡した。彼女はその賞状を
僕は拍手をしながら思った。
彼女は夏休み中、白兎の新聞を書いていたはずだ。
コンクールに出したのはその新聞か? それとももう一つ別の新聞を書いて応募したのだろうか?
いずれにしても、白兎の新聞はもう書き終わっているということだろう。
拍手がやんできた頃合いを見計らって、司会の先生が言った。
「えー、尚、緒方さんの受賞作が職員室前に飾られています。是非ご覧ください」
始業式が終わると、僕は走って体育館を出た。後ろから、先生の怒鳴り声が聞こえてくる。
しかし僕は止まらなかった。
渡り廊下を抜け、職員室目掛けて疾走する。
ふと、僕と同じように走ってくる者が一人、いや、二人いた。瀬戸と深山だった。
職員室の前の廊下には、まだ誰もいなかった。
掲示板に、彼女の作品は飾られていた。
僕ら三人は、掲示板に駆け寄るとそれをじっくりと読んだ。
その新聞はやはり、白兎についての新聞だった。
まず最初に書かれていたのは、〝鍵〟のことだった。『亡き友人託した鍵の謎』という見出しが付けられている。そういえば、最初の頃彼女がミステリーがどうのこうのと言っていたのを思い出す。
それからネタばらしをし、彼の計画に至るまでの経緯が書かれている。彼女が彼に恋愛相談した話から、計画の話まで。
彼の顔写真も載っていた。彼はこちらに微笑みかけている。
更には僕と彼の関係も書いてあった。
そして、計画の実行のところでは、最後の彼の手紙やレコードのことも書かれていた。驚いたことに、告白した結果、まだ返事待ちだということまで書いてあった。
瀬戸はニヤニヤしながら僕に言った。
「あーあ、これはヤバイぞ、お前」
「えっ? 何が?」
僕がどういう意味か考えていると、後ろから声がした。
「くそっ! 誰だ! あの光莉ちゃんの告白にさっさと返事しない奴は!」
驚いて振り返ると、いつの間にか僕らの後ろには
瀬戸が僕の耳元で
「彼女は学校中の人気者だ。このままじゃ、お前、
彼女のファンらしき人達がたくさん集まり、辺りは騒然としていた。更に、女子のグループも新聞の彼の写真を見て、キャーキャー黄色い声をあげていて、僕らはひとまずその場を退散することにした。
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