アルカンシエル

神尾点睛

プロローグ

「これは君が持っていてくれ――――」

【彼】はそう言って、僕に鍵を渡した。

「これは何の鍵?」

「いつか必要になる時が来る……」


 ふと、目が覚めた。カーテンの隙間から、うっすらと一筋の光が射し込んでいる。

「夢……またか……」

 僕は、まだぼんやりしている体を起こした。


 カーテンを開くと、まるでそれを待っていたかのように、何筋もの光が飛び込んできて、途端に部屋が明るく照らされた。海に浮かぶ流氷のような雲がまばらにある空は、春にしては珍しく、あまねく澄んでいて真っ青だった。

 けれども、それとは裏腹に僕の心は曇っている。

「はぁー……」

 溜息ためいきを吐いた後、制服に着替えて階段を下りていった。


 階段を下りると、リビングには誰もいなかった。

「また仕事か……」

 冷蔵庫を開けると卵とベーコンがあったので、それで目玉焼きを作った。トマトを切り、レタスをちぎって、トーストと共に朝食にした。

 食事をりながら、ざっと頭の中で今日の予定を確認する。

 今日は僕にとって忘れられない、大事な日――――

 会いに行くか……


 食事を終えると、かばんに文庫本と必要最低限のお金を入れて、ハードケースを背負い外へ出た。

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