世界の不条理に愛を

稀津月 麗慈

前奏 泡沫の夢

「自分が書かれた登場人物かもしれない、と思った事はないかい。」



 小さなワンピースに身を包んだ、白髪で小柄な少女が、真っ赤な目をこちらに向けて語りかけてくる。


「例えば奇跡を体験した時


笑ってしまうほどの不幸に見舞われた時


わかりやすい幸福が舞い込んできた時


君たちの人生はいとも容易く場面が切り替わり、人形劇のようにストーリーが展開する。君たちの人生は所詮書かれたストーリーに過ぎない。筆者がいて、読者がいて、君たちは弄ばれているんだ。」


 どういう事だ、と聞こうとした。だが思うように声が出なかった。


「そう、その、『声が出なかった』という感想。それは君の想いでもなんでもない。筆者が書き与えた役に過ぎないんだよ。」


そしてそれは、と白髪の少女が続ける


「誰においても同じ事だ。君たちを書いている人間もまた、誰かに書かれた物語の一部でしかない。君たちを見ている人間もまた、誰かに書かれた登場人物に過ぎない。人の人生は書かれた文字にすぎないんだよ。」


あなたは、誰なんだ。その言葉も喉から出ない。


「私は作家だよ。君たちを書き、君たちを見物する側の存在だ。この物語は、君たちに不幸が降りかかって、君たちが敗北するだけの話なんだよ。でも、私は君に興味があるから、ちょっとは楽しませてね。君のために、この物語に大幅な修正が入ってるんだから、かっこいいところ見せてよね。」


その言葉を最後に、僕の夢は終わった。

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