幕間 彼の横顔
普段は図書室で手早く勉強は済ませておくのだが、その日は珍しく自室で机に向かって書き物をしていた。
「ん……?」
ふと、視線を感じて横を見る。
「…………」
するとそこには大変可愛らしいルノのしかめっ面があったのだった。
ルノは眉を吊り上げてオレを見つめている。
一体どうしたというのだろう。
「ルノ、どうした? 構ってほしいのか?」
オレがそう聞くと、ルノは眉根の皺を深くする。
どうやら違ったようだ。
「オレが何か気に障ることをしてしまったか?」
眉を下げると、ルノは今度はそわそわと落ち着かない様子になる。
彼の表情と動作の一つ一つが愛らしくて堪らない。
これだから自室では集中できないから図書室で勉強することにしているのだ。
「ちげぇ、けど……」
「けど? 何でもいいから言ってみてくれないか?」
彼を宥めるように柔らかい声を出すと、彼はむしろキッと視線を鋭くさせるのだった。
「だから、ちげぇ! あんたは関係なく……ない、けど、とにかく放っとけ!」
彼はぷいと背中を向けると、毛布を頭から被ってしまった。
どういうことだろう。
何かもの言いたげにオレを睨んでいたのはルノの方なのに。
感情豊かで表情をころころ変えるルノは眺めているだけで愛おしくて堪らないが、時々こうして彼の感情の機微が分からないことがある。そこが一層可愛らしさを感じさせるのだが。
彼の身体を包み込んだ毛布の塊を見つめながら頭を悩ませるが、どうしても彼が何を考えていたのか謎を解き明かすことは出来なかった。
* * *
部屋に戻ると、アレクシスが机に向かっていた。
その様子が珍しかったので、オレはそっと彼を観察することにした。
アレクシスはすらすらとペンを滑らかに走らせている。
お貴族様らしく綺麗な筆記体を書いているのだろう。
紙上に視線を落とす彼の真剣な表情がよく見える。
彼が瞬きをする度、彼の長い睫毛が目立った。
こうしてじっくり眺めて、オレはアレクシスの顔が整っていることに改めて気がついた。
前々から知ってはいたけれど、アレクシスの顔の良さはずるい。
だってこんな風に彼が大人しく黙っていると、まるで現実感が無くなってしまう。
オレの部屋になんでこんな美形の貴公子がいるんだろうって。
それに彼の顔を見ていると何だか不思議な気分になる。
何かこう、身体が火照ってくるような……
「ん……?」
彼が振り向く。見つかってしまった。
「ルノ、どうした? 構ってほしいのか?」
オレの視線をどう勘違いしたのか、彼がにこりと微笑みかける。
ちょっと口を開くと自意識過剰の思い上がり野郎になるんだからコイツは。
「オレが何か気に障ることをしてしまったか?」
今度はちょっと悲しげな顔をするアレクシス。
ここで「あんたのせいだ!」と言って八つ当たりするのはあまりにも理不尽だろう。
かといって、「なんでもない」と答えたなら余計な心配をして根掘り葉掘り事情を尋ねてきそうな気がする。
どう答えたらいいか分からず、おろおろと視線を逸らす。
「ちげぇ、けど……」
「けど? 何でもいいから言ってみてくれないか?」
何でも。
つまり、オレが彼の顔を見てカッコいいって思ってたこととか、全部だろうか。
そんなの、話したら……
想像して、頬に火が点いたように熱くなる。
「だから、ちげぇ! あんたは関係なく……ない、けど、とにかく放っとけ!」
顔が赤くなったのを見られたら大変だ。
素早く背中を向けて毛布を頭から引っかぶり、寝たふりをした。
そのまま彼に見つめられていたら、考えていたことを読み取られてしまうんじゃないかという気がした。
まったく。彼のせいで随分と早い時間にベッドに入ることになってしまったじゃないか。
それもこれもアレクシスのせいだ!
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