脱出ゲームのスタートです。
ワイルドベリー
第1話 ここは……俺は……。
こ、ここは何処だ?
俺は頬に床のひんやりとした感触を感じながら瞼を開いた。
頬を付けている床は黒色で、向こうに見える壁は真っ白。壁まで視線を遮る物は何も無い。
頭をゆっくりと上げてみる。
黒色の床に座った状態で周りを見回した。
本当に何も無い。黒色の床と四方に白色の壁があるだけだ。部屋の広さは、えーと、俺は立ち上がり部屋の隅に立ってそこから向こうの隅まで歩いてみる。
1、2、3…………10。
そこから、もう一方の隅へ向かって歩く。
1、2、3…………10。
どうやら、正方形の形の部屋のようだ。一辺が10歩だから、一歩が身長の約半分として…………。
ちょ、ちょっと、待て。俺の身長って何センチだ?
っていうか、そもそも、俺って誰なんだ?
不思議な事に、俺は自分の事について何も記憶らしきものが無かった。
現時点で自分は自分であると認識は出来ている。しかし、その自分が何者なのかはさっぱりわからないのだ。
記憶喪失?
両手で自分の顔に触れてみる。目が二つで鼻が一つ、そして口が一つって当たりまえか。
服装は何処かの学校の制服らしきものを着ている。
俺って学生なのか?
よく見ると、胸もとにネームプレートが付いている。
四葉 来人。これが俺の名前なのだろうか?
えーと、何て読めばいいのだろうか?
よつば くると……しよう らいと?
何か使用中の懐中電灯みたいな名前だな。まあ、いいや。とりあえず、これが俺の名前ってことで。
何か自分の記憶に関する物がないか、ポケットを探ってみる。
ポケットから出てきたのは、財布、鍵、スマートフォン。
これはなかなか良い情報が得られそうだ。
まずは財布から、濃い茶色の二つ折り財布でファスナーが付いている。ファスナーを開いて中を見ると、三枚のサービススタンプカードと五百円玉一枚と百円玉三枚。
「うわっ、ぜんぜんお金持ってねー」
「って俺の財布か」
思わずひとり言を洩らしてしまう位にショボい中身だった。まあ、学生なんで仕方ないか。
それよりも、気になったのはスタンプカードの方だ。
三枚のスタンプカードはケーキ屋、美容室、ショップのもので、それぞれの住所が札幌、東京、福岡になっている。これだと、自分が住んでいた所も分からなければ、この場所の予測も出来ない。
鍵は二つ付いていて、何かのキャラのキーホルダーで纏められている。鍵の形状からして、片方は家の鍵っぽく、もう一方は自転車の鍵のようだ。まあ、これも俺が欲しい情報としては大して役に立たないものだ。
さて、ここからが本命だ。
目の前にあるスマートフォンだが、電源さえ入れば中に俺の個人情報がたっぷりと詰まっているはず。
俺はスマートフォンの電源ボタンに触れてみる。
液晶の部分に光が入る。
「よし。いいぞ」
OSの起動画面が出て、少し待つとロック画面に変わる。パスワードを聞いてこないところをみると、設定されて無かったようだ。
スワイプしてホーム画面を開く。
ホーム画面が現れた瞬間、何かのアプリが起動したようで、画面はそのアプリの画像で埋めつくされる。
「なんだ? これ?」
アプリが邪魔をして、俺が欲しい情報が手に入らない。とりあえず、このアプリを閉じてホーム画面に戻さないと。
俺はスマートフォンのホームに戻る部分をタッチするのだけれど、全く画面は変わらない。
「何で戻らないんだ?」
スマートフォンのどのボタンを押してもそのアプリ閉じることが出来ず、再起動をさせても同じアプリが立ち上がってくる。
「くそぉー、何なんだよ!」
俺は苛々しながら、そのアプリを見る。
タイトルはオールオアノット。
タイトルの下の部分にスタートボタンと、説明を見るボタンがある。とりあえず、説明を見るボタンをタップしてみる。
画面が変わり、文字と写真が表示された。
「えーと、何だって?」
文字の部分を読んでいく。
これは脱出ゲームです。
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