俺の義妹は実の妹!・・・などという非現実を誰が信じますか?

黒猫ポチ

プロローグ

第1話 俺の父さんが再婚する事になりました

 その日、俺はいつも通りに塾へ行って、いつもより遅い時間に家に帰った。遅いと言っても午後6時だからまだ外は明るい。


 1年半前、俺は自らが置かれた立場を嫌という程思い知らされた。それからというもの、俺は必死になって勉強した。趣味10:勉強0の生活をやめ、趣味0:勉強10に変わった。毎日2時間、休日は最低5時間塾に行き、それこそ死に物狂いで頑張った。

 中学2年の夏休みの段階では「合格確率30%以下」の評価を、それこそ死に物狂いの努力で覆し俺は第一志望校の合格通知を受け取った。


 創立から70年以上の伝統を誇る名門校、私立清風山せいふうざん高校。


 発明王エジソンは言った。「天才とは99%の努力と1%のひらめき」だと。

 日々の弛まぬ努力と、ちょっとした出来事・きっかけ・ひらめきが天才を生み出すのだと。俺はあの1年半前まで自分の才能の過大評価、というか中二病的妄想に憑りつかれていたのは認める。でも、それを変える出来事が1年半前にあった。

 だから俺は必死になった。ある意味、あの出来事には感謝しないといけない。


 だが、ここで油断すると入学早々あっという間に置いて行かれる。だから俺は中学卒業以降も最低2時間塾に通う事を自らに課した。ただ、今日は何故か5時間もやっていたという事だ。


 言い忘れていたが、俺の姓は留辺蘂るべしべ、名は京極きょうごく、留辺蘂京極だ。年齢は15歳。俺が16歳になるのはもう少し先の事だ。あと10日ほどで俺は高校生になる。もちろん、俺の目の前に広がっているのは無限の可能性、そして、薔薇色の人生!

・・・い、いかん、また昔の変な妄想癖が俺を狂わそうとしている・・・。


「ただいまー」


 俺は普段通り玄関を開けて家に入ったけど「あれっ?」と思った。見慣れない靴、それも明らかに女性の靴が玄関にあったからだ。それに家に入った瞬間、女性の話し声がした。

 近所のおばさんでも来てるのかなあ、程度の感覚で俺は普段通りに家のリビングに行ったのだが、テーブルで父さんと向い合せの席に座っていた中年(失礼)の女性の顔には見覚えが無かったから、一瞬だけど俺は焦って、どう対応すればいいのか分からなかった。

「おー、おかえりー」

「あ、ああ・・・ただいま」

「いやあ、お前が帰ってくるのが思ってたより遅かったからずうっと待っていたのだが、まさか『早く帰ってこい』などと催促するのも悪いと思ってなあ」

「そうか・・・」

「京極、悪いけど話があるから、ここへ座ってくれ」

 そう言って父さんは俺に自分の横の椅子に座るよう促したから、俺は背負っていたリュックを足元に置いて黙って座った。俺の斜め前、すなわち父さんの正面には女性が座ったままニコニコしていた。

 その女性はテーブルの上にあった空のコップにペットボトルの烏龍茶を注ごうとしたけど、それを父さんが制して自分で烏龍茶を入れ、それを俺の前に置いた。そのまま、珍しく超がつく程、真面目な顔をして話し出した。

「じ、実は・・・父さん、再婚する事にした」

 いきなり父さんは主題を切り出したから、俺は思わず「えー!」と言ってしまった。父さんは右手で自分の頬をポリポリと引っ掻いてるけど、女性はニコニコ顔のままだった。

「おいおい、いきなり叫ぶ事はないだろー」

「あー、いや、スマン・・・今まで俺が何度も『再婚しろ』って言った事があったけど、そのたびに『その気はない、母さんに失礼だ』と言ってたのにさあ」

「ま、まあ、さすがにもう10年だ。母さんも許してくれるだろう・・・」

「だろうな・・・」

「それで、その相手というのが、ここに座っているかかり汐見しおみさんだ」

「はじめまして、汐見しおみです」

 そう言うとその女性、汐見さんはニコッとほほ笑んで軽く自己紹介した。俺は少し緊張気味に「留辺蘂京極です」と返事をした。

「・・・父さん、いつ再婚する気になったんだあ?俺は全然気付かなかったぞ」

 そう言って俺は父さんを茶化したけど、父さんはちょっと苦笑いして

「いやー、実は去年の秋くらいだ」

「マジかよ!?」

「去年の正月、父さんの高校の卒業25周年の記念同窓会があったのを覚えているか?」

「あー、そういえば・・・」

「同じ系列とはいえガスと医療用流動食では組織が違うし、事業所も違う場所だったから全然知らなかったけど、とにかく同じ広内金ひろうちがねグループの企業に勤めてるっていうのを教えてもらったんだよ、な」

「ええ。それでその1か月くらい後だったかなあ、その日の最後の営業先だった札幌糸魚沢いといざわ病院から帰ろうとしたら、たまたま峰延みねのぶさんが営業帰りで出てきたところにバッタリ会って、その場で30分くらい立ち話してたのがキッカケで、その後連絡を取り合うようになったという訳ね」

「ヒュー、同窓会サマサマですねー」

「京極、揶揄うな」

「スマンスマン。それで、いつ入籍したんだ?」

「週明けに籍を入れる事でお互いに同意している」

「そうか・・・おめでとう」

「お前の受験の邪魔になると思って今までずうっと黙っていたけど、汐見と京極の両方の時間が取れる日がなくてな。で、今日紹介しようと思っていたが、お前の帰りが思ったより遅かったから今の今まで待っていたという訳さ」

「ふーん」

「京極、一つ相談があるんだが・・・」

 父さんは再び真面目な顔になって話し始めたから、俺は内心「おいおい、まさか俺に学生寮とかに住めとか言い出さないだろうな」とヒヤヒヤしたけど、父さんが言った言葉は全然違った。

「・・・実は、汐見には娘さんが一人いる」

「へ?」

「だから、その娘さんと同居する事になるが、それでもいいか?」

「マジかよ!?」

「ああ、嘘じゃあない。汐見、あれを見せてくれ」

「はいはい」

 そう言うと汐見さんは服のポケットからスマホを取り出して、1枚の写真を見せた。

 そこにはスーツ姿の汐見さんと並んでセーラー服を着た女の子が写っていた。写真の背後にある立て看板には『学校法人 藤山ふじやま 札幌ウィステリア女子中学校 卒業式』と書かれていたから、どうやら中学の卒業式の時に撮ったスナップ写真のようだ。

「ふーん、この子がねえ・・・」

 俺は汐見さんからスマホを借りると、その写真をマジマジと見た。

 一見して、超がつくほど可愛い子だというのに気付いた。でも、同時に俺は『何となくだが似ている・・・』と思わない訳でもなかった。

 だが俺はその時、さっき見落としていた文字に気付いた!正しくは、写真の背後の立て看板に書かれた卒業年度にだ!!

「はあ!同級生かよ!?」

 いきなり大声を上げたから父さんも汐見さんもビックリして

「おいおい、いきなり大声を上げる事はないだろー」

「あー、いや、スマン・・・まさか同級生だとは思わなかったから」

「そういう訳だ。同級生のきょうだいという事になるけど、それでもいいか?」

 俺は一瞬、返事に詰まった。そう、父さんは「あの事を」気遣っていると直感したからだ。俺の唯一ともいうべき・・・

「・・・いんや、別に構わん。あれはあれ、これはこれ・・・」

「そうか・・・」

 そう言うと父さんはホッとしたような表情になり、汐見さんも同時にホッとしたような表情になった。

「ところで京極、明日の昼前後に何か用事は入ってるか?」

「ん?明日の塾は午後からだから何も入れてないよ」

「明日、汐見とその子と一緒にお昼ご飯を食べる事にしているけど、それでいいか?」

「いいよー。場所は?」

「札幌ドームの近くにあるファミレス・ボストだけど」

「全然構わない。それが終わったら塾に行ってもいい?」

「父さんは別に構わないぞ。汐見は?」

「構いませんよ」

「じゃあ、行く時になったら教えてくれ。俺は一緒にいくから」

「りょーかい」

 そう言うと父さんは立ち上がった。同時に汐見さんも立ち上がった。

「送っていくから留守番たのむぞ」

「ああ、別に俺は構わない」

「それじゃあ京極君、明日また会いましょう」

 汐見さんはそれだけ言うと右手を軽く振ったから俺も右手を軽く振って挨拶した。そのまま父さんと汐見さんは玄関の扉を開けて父さんの車に乗り込んだから、俺は車を見送った後、玄関の扉を静かに閉めた・・・。


 俺はそのままリビングに置きっぱなしのリュックを持って自分の部屋に行ったが・・・正直、心にポッカリと穴が開いたような気分だった。

 俺は自分の机の椅子に「はーーーー」と、ため息をつきながら座ると、机の上に置いてあった写真立てをマジマジと眺めた。

 そこには・・・後方の右に若い男性、左に若い女性が少し前かがみになる感じで立っていて、若い男性の前に小さな男の子、若い女性の前に小さな女の子がいて、男性と女性は男の子と女の子の肩に手を乗せていた。四人の背景には一面のラベンダーがあった。

 その写真の男の子は俺だ。だけど、


千歳ちとせ・・・お前に断りもなくお姉ちゃんか妹が来る事になったけど、許してくれるか?」

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