首切り女と首無し男
白ラムネ
短編
私は佐久間ちえり。
世間で言うヤンデレだ。
自覚してはいるが止められない。
だって、好きな人をずっと私だけのものにしたいじゃない?
でも、好きになった男はみんな私を裏切る。
楽しそうに他の女と話してるし、当然のように私以外の女と出かける。
おかしいじゃん。
私だけを見てよ。
私だけを愛してよ。
私はあなたしか見てないのに.........
「ま、待ってくれ、裏切るつもりはなかったんだよ」
「嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき!!!!!」
「ただ君の愛についてけなっ.........」
彼の首が地に落ちる。
私は感情を失った顔で彼の顔を見ていた。
「あ~あ、この人もダメだったか........」
私は包丁を洗いながら、彼との思い出を思い返していた。
デートの思い出、キスの思い出、そして性行為の思い出。
全て幸せなものだった。
しかし、最後にはあの害虫共と一緒に楽しそうに歩く彼の姿が、こびりつくように残ってしまう。
幸せは忘れやすいのになんで不幸なことは強く思い出してしまうんだろう.........。
他の女と話しながら笑う彼の顔を思い出して、包丁を折ってしまう。
「また新しいの探さないと........」
私はいつもの場所に遺体を隠す。
殺すことに関しては何も思わなかった。
だって、一生自分以外のモノにならないから.........。
私が大学を歩いていた時、一際目立つ青年が目に留まった。
その青年は容姿が外国の人っぽくて自毛か染めたのかわからない茶髪の髪を揺らしていた。
いつもタートルネックの服を着ていた。
友達に聞くとそんな人いたっけ?と首を傾げられてしまった。
私は次の日から彼を探すようになっていた。
そして探し始めて一週間がたった時、彼を見つけることが出来た。
彼は不思議な雰囲気をしている。
身長は190cmくらいあって頭がとびぬけているのに誰にも相手にされていないようだった。
「まるで誰にも見えてないみたい」
「ちえり、どうしたの?」
隣にいた友達の真理が不思議そうに私を見ていた。
私よりもその顔で見るべき相手がいるのに。
真理もあの青年に気づいていないようだった。
本当に不思議だな........。
そして、気づいた時には彼の方に歩き出していた。
「ちえり、どこ行くの!?」
真理の言葉も聞こえなくなるほど早く人の波を通り抜けて彼の方に歩いていた。
そして、ゆっくり歩く彼の前に立つ。
彼はそれに驚いたように立ち止まった。
「ちょっとお話良いですか?」
彼は周りを見渡した後、小さく頷いた。
彼は全く喋らなかった。
食堂に二人で移動する。
彼は頼むために食券を買う間も食事をしている間も寡黙で喋らなかった。
私は少し戸惑ってしまう。
向かい合いながら食べているのだが一人で食べているようだった。
「すみません、いきなり引き留めてしまって」
私がさっきのことを謝罪すると彼は微笑しながら首を横に振った。
「さっきから気になっていたんですけど、喋れないんですか?」
「喋ることはできますよ」
少し低い声だった。
彼の蒼い瞳が私を見る。
心の奥底まで見透かされているようだった。
「今まで喋りかけられなかっただけです」
「そうなんですね」
そこからいくつか質問をしていった。
彼の名前がデュライン・ハンベルという名前だということ。
遠い異国から来たということ。
そして、話しかけられたのが私が初めてだったこと。
私は彼と話し合っていくうちに彼に興味がわいてきてしまった。
私は一回狙った相手は地の果てまで逃さない性格なので、その日のうちに告白した。
彼は呆気なく了承してしまった。
数週間後、彼が家に遊びに来た時に事件が起きた。
私が目を離した隙に彼が地下室のドアを開けてしまったのだ。
彼は驚きの声をあげる。
私は感情を失う。
そして、彼のタートルネックの中にある首を包丁で切り落とした。
何故かって?
そこには過去に殺した相手の首が飾ってあるから。
三つ前の彼氏もこれを見て顔面蒼白になっていた。
まあ、通報されたら面倒だから殺したけど。
今回の彼はどんな顔をしてるかな?
「え!?」
彼の顔を見ると心臓が止まりそうになる。
切り落とした首はずっとこちらを見ていたのだ。
瞬きもせずにずっと。
そして、普通は倒れるはずの体も倒れることはなかった。
「やっぱり、同じ匂いがしたんだ」
いきなり彼の生首が喋りだした。
胴体も動き出し、押し倒される。
「な、なんで!?」
私は包丁を彼に取られ、服をはぎ取られる。
ああ、終わった........。
下着姿の私は包丁を持った彼に殺されることを覚悟する。
そして、彼は私の顔目掛けて包丁を振りかざす。
私は咄嗟に目をつぶった。
ザク!!!
何かに刺さる音がする。
いつまでたっても痛みはこなかった。
あれ?
疑問に思い、ゆっくり目を開けると私の真横にナイフが刺さっていた。
彼の体が彼の生首を持ってこちらの顔をうかがっている。
信じられない光景に息を飲んだ。
「君は人をたくさん殺したんだね」
彼は寂しそうに笑っていた。
「僕はデュラハンなんだ、だから罰として君の目を一個貰うね」
「え、何言ってんの!?」
彼は持っていた顔で私の左目にキスをする。
「ああああ、ああああああああ!!!!!」
そして、麺をすするように左目を吸い取る。
左側が見えなくなった私は右目から涙を流した。
「美味しかったよ、ありがとう」
彼は今までの最高の笑顔で私に感謝した。
彼は首を頭にはめて歩いて行ってしまう。
私は混乱していたが体は動くことがわかった。
震える足を必死に突き動かして、彼の服を掴んだ。
「待って!!!」
彼は驚いたような顔をして私を見ていた。
「行かないで!!!私を置いていかないでよ!!!!!」
私は必死に叫んでいた。
隻眼の瞳は彼をずっととらえていた。
彼は少し固まった後に優しく笑った。
「もう過ちは繰り返さないと約束できる?」
彼の蒼い瞳がまた私の心を吸い込ませるようだった。
「しない、絶対繰り返さない!!!」
彼なら私を満足させてくれる、そんな気がしたんだ。
彼は私を優しく包み込んだ後に、優しくキスをした。
突然、眠気が襲ってくる。
ゆっくり意識が薄れていった。
私は白い天井を見ていた。
窓からの木漏れ日が布団を照らしている。
何も覚えていなかった。
お医者さんには記憶喪失と判断されたと、私の母を名乗る人が教えてくれた。
何もかもがわからなかった。
ただずっと知らない人達が私を心配して見舞いに来てくれている。
私はそれを生きづらく感じて病院の外のベンチに座っていた。
「何なの?知らない人がたくさん、母親ってなに?真理って誰?私の名前は?」
混乱する頭を落ち着けるように開かない左目を触る。
ここを触ると落ち着いた気分になれるのだ。
理由はわからない。
そして、左目を擦っていると隣に誰かが座っていることに気が付いた。
私は怯えながらゆっくりと隣を見る。
タートルネックを着た蒼い瞳の青年。
自毛か染めたのかわからない茶髪を風に揺らしていた。
「ハン、ベル..........」
咄嗟に出てきた誰かの名前。
そして、私は自然に涙が出ていた。
わからない、わからないけど涙が止まらなかった。
なくなったはずの左目からも涙が出ている。
彼はゆっくりこっちを見た後にこう言った。
「君も罪な女だね」
首切り女と首無し男 白ラムネ @siroramune
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