ブライド トリップ
常夏 果実
第1話
この物語は私のほんの少しの後悔と
現実ではありえない奇跡が重なった物語
22歳、私は結婚した
その時は本当に好きだった
優しくて真面目で浮気なんて絶対しない
見た目はお世辞にもイケメンとは言えないけど、それでも私を大切にしてくれるひと。
結婚して半年。子供にも恵まれ出産し、2ヶ月が経った。
まだまだ新婚なはずなのに愛情が薄れていくのを感じた。
ふとした瞬間。
やりたいことが脳裏によぎる
仕事、転職してもっと給料のいいところ狙えるのに
恋愛、もっといろんな人と恋愛すればよかったな
ないものねだり。
私は散らかった部屋を片付けているとき、そんなことを考えてしまう。
今日も押入れの中を片付けている時、頭の中でそんなことを考えながら片付けをしていた
でも、今日は違った
高校の頃のアルバムを見つけたからだ
「懐かしいなぁ」
専業主婦になってから、高校の頃の友達とは何故か疎遠になっていた
ページをめくる
自分のクラスの写真から制服を着た20人程度
四年前、楽しかったな
若かったからなんでもした
地域の演劇集団なんか入ったりもした
あの頃は本気で役者を目指そうとしていた。
「…かずき君」
同じクラスのページになかなかにカッコイイ男の子を指でなぞり呟いた。
1年性の頃、同じクラスだった かずき君
私の初めての彼氏だ
私から告白をし、付き合うことになった人だ。
彼に対しても後悔がある
私は嫉妬深かった
嫉妬深いくせに自分から何もしない。
つまり鬱陶しい。そんな女だった
他の女の子がかずき君に話しかけるだけで嫌だった。
それを拗ねた態度で彼に問いただした事もあった。
1年生のクリスマス前日に別れた
いつも話していた女の子が好きだったらしい
5ヶ月で私の初めての恋人関係は終わった
もっと私から話しかけていれば
もっと私が優しくしていれば
アルバムを見ながら、また後悔が募っていく
「…ふぁ…」
懐かしさに浸っていると眠くなってきた
昔の懐かしい気持ちのまま、少しだけ寝ようか
どうせ時間はまだまだあるし
…
……
………
「やったじゃん!やな!」
やな、懐かしいな
高校生の時はそう呼ばれてたっけ
苗字が柳だから、やな
単純だし安直
さっきアルバム見てたから高校の時の夢を見ているんだ
「付き合うきっかけの話!聞かせてよー!」
高校の時の友達の晴美が私の背中を思いっきり叩く
彼女は興奮すると力加減を忘れる癖がある
今も背中がジンジンと痛む
痛む?
「晴美?」
「え?何?改まって」
変なの、と笑う晴美を見て私は思わず頬をつねった
ベタだけど痛い。これは夢じゃない
冷静になってみると、晴美も心なしか若く見えるし制服を着ている
「5月…付き合いたて…」
「ほんと付き合いたてだよ!告白したの昨日でしょ?話聞かせてって!」
5月に私はかずき君に告白をした
人によってはありえないと言われるかもしれないがトークアプリで
でもそれが精一杯だった。
私の勇気を全部付き合ってくださいの一言に詰め込んで送った
彼はよろしくお願いしますと可愛らしい絵文字を使って丁寧に返してくれた
その時は本当に嬉しかった
今更だけどここは教室。
時計を見ると、多分朝のホームルームが始まる前
あたりを見回してみると
ロッカーのあたりにかずき君がいた
かずき君の姿は昔のままだった
その姿に私は昔の胸がきゅっとなるような愛おしい気持ちが蘇って泣きそうになった
好きってこんな気持ちだったけ
旦那にはもうしばらく抱いていなかった感情をここで味わうのは何だかよろしくない
でも夢なら、いいか
私はかずき君に控えめに手を振ってみた
すると彼は笑顔でこちらに手を振り返してくれた
好き
「きゃー!いいねー!」
晴美は昔のままの癖で私の背中を勢いよく叩いた
ジンジンと背中は痛むが私の口角は緩んでしまっている
楽しいな
そうだ声をかけてみようかな、かずき君
もう貴方の記憶は別れた頃の記憶しかなかったから
「かずき君」
「かずき君って誰?」
教室に合わない異様に低い声
聞き覚えのある低音
目が覚めた
質素な寝室の床が目に飛び込んできた
現実。やっぱりさっきのは夢か
でもとても幸せな夢だった。
「高校の時のアルバム?うわーかおちゃん若いねー」
今だって十分若いだろ
少し頭にきた。いつもはこんな些細なこと気にしないのに
「片付けてたら寝ちゃって」
「そうなんだ、気楽だね」
この人、こんな言葉に棘がある人だっけ?
私はまだボーッとする頭でそんなことを考えた
そして1つ疑問が生まれてしまった
どうして結婚したんだっけ
それはきっと胸の奥底にしまっておいた開けてはいけない感情だった
明日もアルバムを見返そう
せめて夢だけは幸せなままでいて
私は、そっとアルバムを閉じ笑顔を作りながら現実に溶け込んでいった
ブライド トリップ 常夏 果実 @tokonatsu0722
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