第33羽


 


 私のちょっとズレてたかも知れない第一声の後、今度こそ空くんがメッセージを入れた。


『そうだよ、僕だって実際にはなんにもしてないからね、功労者は勇だし。 僕も料理手伝うよ?』



 ―――ええっ?! そ、それはちょっと……。



 だって空くんの方がきっとお料理上手だし、そんなの恥ずかしい。 それに……


『そんなのダメだよ、空くんにもたまには作ってもらう側になって欲しいから』


 そのメッセージは、思った事を自然と指が動き送信していた。 すると、


『水崎さんは優しいねぇ』


 と、常盤くん……ちょっと恥ずかしいからやめて……! なんだかすごく照れ臭い事を言った気がしてきたよ……。


『水崎さん、あざといなぁ』



 ――うっ……そんなつもりじゃないのに………。



 今、加藤さんが携帯の画面を白い目で見ているのが目に浮かぶ。 ……あれ? 常盤くんから個人メッセージが来てる。


『加藤さんから怒りのスタンプが送られてきたよ……発言を控えます』


 ………なるほど。 私を優しいとか言ったからだね、恐ろしい人だよ加藤さんってのは。


『でもそうだよ? に食べさせたいんだから、大人しくしててねっ!』


 出た、 “そらち” 。 思い出したように使うもんなぁ。


 でも、私と加藤さんの発言を受けて空くんもわかってくれたようで、


『はい。 出しゃばるのはやめます。 でも勇の為なのは間違いないからね』


 空くんがそう言うと加藤さんもそれに従い、


『うん。 じゃあ勇くんは何が食べたいかな?』


 ていうか、勇くん見てるのかな? さっきから無言だし、やっぱりメッセージでも口下手なんだろうか。


 それから暫く間が空いて、どうやらちゃんと成り行きを見ていたらしい勇くんが一言。




『じゃ焼きそば』




 …………ああ、うちのお父さんタイプだね、これは。



『……作り甲斐のない』(加藤さん)

『勇らしいね』(空くん)



 勇くんだけに作るのならお母さんの手ほどきを受けるのもアリだったな。


『まあ、土曜日のお昼を予定していたから、お昼に焼きそばは有りだと思うけど』


 あ、お昼なんだ。 と私が思っていると、


『ええっ?! 晩御飯じゃないの?』


 と加藤さんが疑問を投げかける。 私もてっきり夜かと思っていたけれど。


『夜だとご家族も心配するだろうし、お昼の方が良いと思う』


 そうだよね、空くんは夜女の子を一人で帰すの嫌いそうだし、私と加藤さん二人は送れないもんね。


『そう……空くんのお部屋に泊まろうと思ってたのに……』



 ………こら。



『加藤さん冗談はやめて』


 私は他の人からコメントが来る前に素早く突っ込んだ。 きっと空くんからどんな返事が来るか楽しんでるんだから、そんな事は絶対させない。 この時、私は過去最速で画面操作をしたと自負出来る。


『じゃ本題に戻るけど、私と水崎さんで一品ずつメインのおかずを作るってのはどう?』



 ―――なっ?!………仕掛けてきたわね。 こんなの完全に “宣戦布告” だもんね。 でも、ここで引いたらこの『恋の舞台』から身を引くも同然……やるしかない……っ!



『うん、いいよ』


 この言葉で私の秘めた闘志が加藤さんにも伝わっている筈、現在勝算はありませんが……。


『それじゃ後は汁物は私が作るから水崎さんサラダよろしくねっ! 野菜も摂らないとダメだよ〜』



 くっ……サラッと『汁物』を取っていく辺り抜け目ない。 それはこの日本で、古くはプロポーズにすら使われたと言われているらしい。



 みそ汁→毎日飲む→それを作る女性→結婚



 まぁ理論的にはこんな感じなのかな? とにかく今回は『サラダ』担当に甘んじるしかないか、サラダの可能性を広げるしかない。


『うん、サラダね』


『おけ、じゃあ当日楽しみにしててね男子諸君。 可愛い女の子がエプロン姿で手料理を振る舞ってあげるからね〜』



 ………なんていう自信。 私には冗談でも言えない台詞だよ……。 そして、



 ――― “可愛い女の子” 。



 わかる? 可愛い女の子、……じゃないの。 被害妄想と言われればそれまでだけど、相手が加藤さんだと確信に変わるよ……。



『うん。 殺風景な我が家の台所も二人が使えば華やかになるね』



 …………? それって………




 ―――?! は、華やか、だなんて………。




 もうっ、空くんはどうして私をこんなにキュンキュンさせるのっ……この感覚が癖になっちゃうんだよ? 知ってるの?


 でも……ありがとう。 精一杯可愛くしていくね。


 私がうっとりと画面を眺めていると、



『焼きそばは』



 ……まったく、お父さん《勇くん》は……。



『それは私が別で作ってあげるから』


 そう返事を入れてあげると、謎のキックボクサーがトロフィーを掲げて喜んでいるスタンプが画面に貼り付けられた。


 勇くんって、変わってるよね。 不思議な人。



 かくして、空くんお宅訪問の内容が決まった。 その後は皆苦手な物が無いかとか、色々と雑談を交わしながら少しの間グループメッセージは賑わいを見せていた。


 今度はお家だから空くん部屋着なのかな? それも楽しみの一つだよねっ。


 ――はっ……でも、空くんの私服姿を加藤さんにも見られるのか……なんか、嫌だな。 私はデートの時に一度見たけど、すごく良いんだよね、意識が飛ぶ程。



 私、独占欲強いのかな?


 そ、そんな事ないよね、好きな人だったら皆そうだ………と、思う。


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