第26羽

 


 ―――放課後、それは意中の相手を誘うチャンス。



 この翔英高校でも例外なくそれは行われ、誘う者、誘われる者に分かれ熾烈しれつな戦いが繰り広げられている。 その戦いに勝利する為には当然誘う『勇気』が必要、でもそれだけじゃダメ。 その確率を上げる『知恵』も必要なの。


 私、水崎真尋の参戦している『空くん争奪戦』はかなりの競争率だと思う。 少しは私も成長したと思うけれど、自己評価でもまだ勇気 “E” 、知恵に至っては “F” といった所じゃないかと。


 その知恵を働かせて、もう午前中からそれとなく今日の予定を聞いてみたら……




 ――――「今日はみくるちゃんと遊ぶ約束なんだ」




 ………本日権利を手に入れたのは、




 ―――― 『みくる&別府さんシスターズ』でした……。




 ねぇなんで?! そりゃ写真みたら可愛かったけどさっ! なんで学校外の相手に、小学生にぃ………うぅ、ライバルは校内だけじゃないって事ね。 また、勉強になりました……。



「えっ、今日も海弥さんの妹さんと遊ぶの? 懐かれてるのはいいけど、海弥さんも灰垣くんに依存し過ぎじゃないかな?」



 おおっ? 常盤くんっ、キミは中々良いことを言うね!



「そうかな? 良い運動になるし、楽しいよ?」


「俺は運動苦手だからね、楽しいとは思えないけど、灰垣くんは小さい子が好きなんだね」



 ………常盤くん、その “ワード” は減点です。



 “小さい子が好き” 、なんて二度と言わないでください。 小さいが好き、訂正を求めます。



「空ぁ、行こーぜ」


「あっ、来てくれたんだ勇」



 勇くん……そう、キミまで行くんだね。



「水崎さん、あれ灰垣くんの友達?」


「う、うん、そうだよ」



 常盤くん、ちょっと近い……耳元で話さないで……。



「なんか、怖そう……」

「最初は私もそうだったけど、話してみるとそうでもないよ」



 ああ、なんだか別府さんが空くんの外堀をどんどん埋めていってるような……はぁぁぁ……。



 ―――あれ?



 向こうでは木村くんが久し振りに加藤さんにアタックしてる。

 そうだよね、木村くんだって好きなら簡単に諦めちゃダメだ。 陰ながら応援してるよ、キム。






「加藤、ちょっと話があんだけど」



 あら、大分不機嫌そう。 女の子を誘う顔じゃないよ木村。 元々私を誘える顔じゃないけど。


「話? なーに?」


「場所変えて話したい、すぐ終わるからいいだろ?」


 えー、告白でもするつもり? 流石に木村でも今の成功率でしないか、となると話ってのはね。 面倒だし、逃げちゃおっかな?



 ――あっ………



 いいこと思いついちゃった。




「いーよ? 聞いてあげる」





 ◆





 なんとなく私と常盤くんも含め4人での下校にはなったけど、どうせ途中で “さよなら” 、だもんね。


 はぁ……。 なんか、今日は溜息が多いな。



「空、携帯鳴った」


「ああ、ありがとう勇」



 私も見学だけしに行こうかな? でも、別府さん怖いし、姉妹で空くんとアットホームな雰囲気出されたらダメージは深刻だろうな。 諦めよう……。



「………勇、先に行ってて」



 携帯のメッセージを見たと思ったら、急に空くんの表情が変わった。



「は? なんで?」



 な、なに? どうしたの? こんな険しい顔の空くん、見たことない………よ?






 ◆






 さてさて、さっきメッセージは送ったし、灰垣くんはか弱い愛里のSOS見てくれたかな?



『木村くんに灰垣くんとの事で話があるって連れ出されて今裏門にいるの、怒ってるみたいだし、愛里こわい……』



 お、よしよし、既読になってる。


 後はこの木村エサをどう激昂させるかが腕の見せ所だね。 どうせコイツなんか度胸ないから怒らせても大したこと出来ないだろうし。



「それで、話ってなに?」


「わかってんだろ? なんで灰垣みたいなチビガキにかまってんだよ」


 キミさぁ、そのに掴みかかって返り討ちにされてなかった?


「なんか可愛いから、ダメ?」


「はぁ? お前が本気だとは思わねーけど、周りはそうは思わねぇぞ?」


「別に周りなんて気にしないけど?」



 どうせ、モノにしたらすぐ捨てるしね。



「あんなのと付き合ってると思われていいのかよ? 休み時間一緒に戻って来たり、そういうのはやめろって……!」



 やっぱりそれか。 てかなにコイツ、自分のものみたいに言っちゃってウケる。 大分キモいし、もう仕掛けちゃおーかな?



「なんで木村にそんな事言われなきゃなんないの?」


「な、なんでってお前……」

「そんな事でいちいち呼び出されても迷惑なんだけど」


「あんなヤツと噂が立ってもいいのかよっ?!」


「こんな所でアンタといて噂が立つ方がしんどいんだけど?」


「なっ……!」



 あ、怒った? 怒ってかな? 木村くん?



「……いい加減にしろよ加藤」



 ―――あはっ。 興奮して聴こえないのかな? の足音が聴こえるよ?



「いい加減にして欲しいのはこっちだって、アンタなんてただのクラスメイト以下だし、灰垣くんの方がよっぽど……」

「てめぇっ!」



 キャーーっ、肩掴まれたキモーい。 こんな可憐な美少女に乱暴するなんて、怖いよ灰垣くんっ! 早く愛里を助けて〜。



「やめてよッ! 痛いって……!」


「あ? なんだ急に……―――っ!!」



 やっと木村バカが気付いたか。



 待ってたわ私の灰垣くん《王子様》。


 せっかく助けてもらうんだから助け甲斐のある女の子を演じなきゃねっ!


 なんならちょっと泣いてみようかな、私ったら。


 そんな事したら抱きしめたくなっちゃう? こんなに可愛いコに泣かれたら当然だよね。



 そうじゃなきゃ許せない、例外なんて………




 ――――絶対認めないんだから。



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