無自覚愛されキャラの天使は今日も気づかずあの子を堕とす
なかの豹吏
第1羽
誰もいない放課後の教室、もう窓も全部閉めてあって、風も入って来ない。
でも、それで………ううん。
それがいい。
風なんて入って来なくていい、誰も……入って来ないで。 邪魔されたくないの、今だけは。
だって今、私は、
―――『天使』を抱きしめているから………。
「………罪悪感なんて、感じる必要ないよ」
ずっと抱いていた私の劣等感を、消してくれた。
「私が、したくてしてるから……」
柔らかい、さらさらとした髪。 ずっと触れていたい。
「代わりでもいい。 “空くん” を………抱きしめたいの」
私の胸元に、小さな、愛おしい顔が埋まっている。
私は背が高いのが嫌だったけれど、そのお陰で、今こうしていられる。
すごく、幸せな気持ちだよ。
今日、初めて自分が大きくて良かったって思った。
ありがとう。
私より、20センチ小さい、クラスメイトの空くん《天使》。
◆
桜が “ようこそ” と言っているようにすら感じる、新しい学校生活に期待を膨らませる新入生達。
もちろん、同時に不安も抱えている。 それでもやっぱり、新たな門出は期待の方が強い筈だよねっ!…………普通。
私も今日からこの『
同じ中学から来ている生徒も何人かいる、でもそこまで仲が良い友達はいないし、何より不安なのは、“目立つ” 事。
これは格好つけてる訳じゃなくって、昔から私は、 “目立ちたくなくても目立つ” 、から。
実はこの私、
お願い神様、どうか席は後ろの方にして下さい! 一番前なんて地獄です。 後ろの女の子からボソッと黒板見えないって言われたら私、泣いちゃうかも……。
私は無事入学式を終えて、自分のクラスになった1-Cに向かった。 その途中にも、珍しい物を見るような視線を感じる、ていうか確定。 だって、珍しいもん……。
「でかっ……」
「アレ、1年だよな」
「あの背で腰上まで髪伸ばすのって何年かかるのかな?」
ううぅ……だから新生活は嫌い……!
1年です、胸のリボンの色見ればわかるでしょ。 髪は何年物かなんて覚えてません、ちゃんと美容院行ってます……! 心が折れそう、私、やっていけるかな……。
聞きたくない声から逃げるように、私は足早に教室に向かった。
教室に入り、黒板に掲示されている座席表を祈るように見ると………か、神様………大好きっ!
―――私、一番後ろだぁ〜〜♪
ホント良かった、これからクラスメイトに “でかっ” ってリアクションされても、この席が与えられた幸運をバネに頑張るっ!
あんまりニヤけてると変に思われちゃうね、平静を装いましょう。
そして着席、内心はウキウキしながら、普通に座りました。 お父さん、お母さん。 真尋、なんとかやっていけそうです! 席替えないといいなぁ……ない訳ないか。
そんな事を考えていると、私の隣の席に一人の男子が腰を下ろした。
この人が高校生活最初のお隣さんか。 お願い、デリカシーたっぷり男子でありますようにぃぃ!
とにかくどんな男子か見てみないとね、自然に、チラッとね。
「………―――は?」
ま、まずい、声出ちゃったよ……!
でも、これは……仕方ないってぇ。 だって、だって、この男子すごく…………… “小っちゃい” の。
………せっかく一番後ろの席になれたのに、これじゃ皆になに言われるか………。
そりゃさ、この男子も私と一緒で、好きで小さい訳じゃないのはわかってる。 私も好きで大きい訳じゃないから。 「おい、後ろの二人身長逆じゃね?」とか言われたらさ、傷つくのは私だけじゃない、彼もだもん。
諦めよう、一緒に乗り越えようね、君。
「…………」
な、なにこの男子コ、よく見たら………
―――― “超” 可愛い…………。
ちょ、ちょっと幻想的なぐらいキレイな顔してるんですけど!?
さらっさらの黒髪、大きな瞳、なんか、赤ちゃんみたいにキレイで、柔らかそうなお肌………。
これ……人間? ううん、違うわ。
――――きっと “天使” だ………。
ダメ、目が離せない……整いすぎてるの、全てが。
その瞳に、吸い寄せられる………。
目を、逸らさなきゃ。 気付かれたら変に思われるもん、それでなくてもこんな大っきい女に……。
―――こ、こっち見たっ!!
お願い私! 前向いて俯くのっ! 見てたのなんてバレてるけど、ずっと見てたら変人だと思われちゃう……っ!
あっ―――笑った………。
現実に、あるんだ………『天使の微笑み』って………生きてる内に見れる………とは………。
もう、ダメ………溶ける………。
「初めまして、僕は
“僕” ……きっとこの男の子、世界で一番 “僕” が似合う……。 声までキレイ。
「隣になったのも何かの縁だし、よろしくね」
ま、また笑った。 可愛い……可愛くないところが無い。
「……ええと、どうしたの?」
―――はっ!! ばかばか、私もご挨拶しなきゃ!
「す、すいません、私は水崎真尋……です。 よろしく、お願いします……」
「クラスメイトなのに敬語はやめてよ。 友達は皆 “空” って呼ぶから、そう呼んでね」
………とも……だち………?
今の言い方だと、私………も?
名前呼びの……… “許可証” まで………。
「あ、ごめん、自己紹介したばかりの女の子に図々しいよね。 こちらこそよろしく、水崎さん」
「ま、真尋……」
「え?」
「真尋って、呼んでください……いいえ、なんて呼んでもいい……です」
「 “なんて” って……言われても」
ああっ! 変な事言った?! うん言った、完全に!
せっかくお友達に、それもいきなり名前呼びのお友達にご招待頂いたのに……―――引かれた、絶対……。
終わった……。 あは……あはは………。
許されるなら、クラス全員に嫌われてもいい、貴方だけには……嫌われたくなかった……。
「じゃあ、真尋ちゃんねっ」
マヒロチャンテ……ダレ?
私は水崎真尋だから違うよね、そうだよ、だってもう嫌われたんだもん。 天使に嫌われたら地獄しかない。 うん、ん? まひ………
―――真尋は私だっ!
「は、はいっ。 ありがとうございます……!」
許してくれるの? なんて寛大な……。
そ、そうか、天使は “裁く“ んじゃなくて、“救う” のがお仕事ですねっ?
「じゃあ、僕も呼んでみて。 あ、そうだ。 ちゃんとタメ口でお願いします」
そそ、それは調子に乗りすぎだって……!
だって今、今許されたばかりのこの申し子が、た、タメ口なんて地獄に堕ちるっ!
……でも、彼がそう “お願い” してるのに、応えないのは失礼だよね?
ちゃんと、ちゃんとしろ真尋っ!
地獄なんて怖くない、彼の “お願い” に応えられるなら、堕ちたって………!
「う、うん。 そ、そ、そ、………空……くん」
「そう、忘れないでね」
その笑顔―――堕ちちゃう………。
忘れない……… “一生” ………。
◆
新しい学校生活には、期待と不安が入り混じる。 でも私は、不安が8、期待が2、ぐらいの割合だった。
でも、入学初日にして、もう私は大丈夫。
不安とか期待の問題じゃない。 そう、もう “天に召され” ました。 生きながらにして。
だって隣には、私を大きいなんて一言も言わない、ううん、言われてもいい。 きっと彼のそれは悪意が無いから。
何故なら、
彼は、 “空” に浮かぶ “天使” だから……。
あ……もう、羽まで見えてきた………。
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