第60話 恋をしたからその日まで 2

あの日以来、何回か顔合わせがあって、正式にお義父さんとお母さんは結婚することになった。


 そして、その結果としてお母さんとお義父さんそれから僕と朱里は一緒に住むことになった。


 「これからは、毎日優くんと一緒だね」

嬉しそうに笑った朱里に笑い返す。もう、そのころには、お義父さんのことを素直にもう一人の父親だと思うことができるようになっていた。


 朱里は優くん、優くんと僕を慕ってくれて、あとを楽しそうについてまわった。そんな朱里が可愛くて、僕はどこにいくにも朱里を連れていった。


 そんな僕たちは血が繋がっていないことを明らかにすると、驚かれるくらい、仲のいい兄妹として評判になった。


 朱里は自慢の妹で、朱里にとっての僕も自慢の兄でありたいと思っていた。そんな僕の考えが、変わったのは、朱里が中学に上がったころのことだった。


 「小鳥遊の妹の、朱里ちゃんって可愛いよな」

僕の同級生がそんなことを言い出したのだ。そのころが中学校での、付き合うだの付き合わないだののピークだったように思う。

「なぁ、小鳥遊。俺に朱里ちゃん紹介してくれない?」

反射的に嫌だ、と思った。そんな自分に戸惑う。そういってきたのは、別に朱里に会わせられないようなやつじゃなかった。少しお調子者のところもあるけれど、気のいい同級生だ。それなのに、なんで。


 「それは、優が朱里ちゃんに恋をしてるからだよ」

呆れたようにため息をついた、智則の言葉を反芻する。

「僕が、朱里に、恋……?」

でも、言われてみれば智則のいう恋の条件とやらに当てはまることは多かった。気づけば朱里を目でおっていて、朱里を誰にも渡したくないと思うし、朱里が笑うと僕も嬉しい。


 そして、何より、僕が初めて自分の意思で優しくしたいと思った女の子。


 そうか、僕はきっと、あの瞬間から朱里に恋に落ちたんだ。そう考えると、急に視界が開けた。だったら、僕のすべきことは簡単だ。


 朱里と一緒に下校して、お義父さんが帰ってくるのを待つ。お義父さんに大切な話があることを伝えると、朱里もお母さんも席をはずしてくれた。


 「それで、優くん話って?」

真剣な顔をした僕にお義父さんも真剣な顔で返す。

「朱里さんのことが、好きです。一人の女性として。だから、朱里さんと将来的に結婚したいと思っています」


 中学生がいきなり結婚だなんて、何言ってるんだ、と笑われると思った。けれど、お義父さんは、僕の考えを否定せずに尋ねた。

「朱里には、そういってあるのか?」

「いいえ。まだ、僕の気持ちを伝えてはいません」

長年恋心自体はあったけれど、自覚したのは、今日だ。流石にまだ、朱里に伝えてはいない。


 「だったら、優くんから、朱里にその想いを告げないことを約束できるか?」

意外な問いに驚く。僕から、この想いを伝えてはならないなんて。


 「朱里が関係が壊れることをいやがって、意思とは関係なく、頷くことがないように。そして、朱里の意志を最優先させること」

なるほど。確かにそうだ。優しい朱里ならやりかねない。


 「わかりました」

「それから、優くん自身にも考える時間が必要だと思う。朱里だけが全てじゃない。だから、朱里が高校生になってから、卒業するまで。それまでの間に、朱里が優くんのことが好きだといったら、認めよう」

朱里が高校生になるまであと二年と半年。それまでの間に、僕の気持ちが変わればそれはそれでいいとお義父さんは言った。その言葉にも頷いたけれど、そんなつもりは毛頭なかった。


 僕は、朱里が好きだ。朱里以外を好きになるなんて、ありえない。





 翌日から、僕の作戦は始まった。とにかく、朱里が僕以外の男に興味を示さないように、朱里によってくる男は徹底的にガードした。


 そんな僕に気付かない朱里は、いつもより距離が近いね、と嬉しそうに笑った。


 中学校生活は、特に問題もなく、穏やかに過ぎた。そして、ついに、朱里が高校にあがる日がやってきた。

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