ラロカの断罪

なたね由

プロローグ

 今までの人生が十八年、これからの人生も十八年。

 それでもその日は私の、きっと忘れられない最悪の日になる。



 足元に転がっているのは、私が毎日見ているもモノに違いない。個体差はあれど、大まかなくくりで言えば人間と呼ばれるそれだ。けれど、私は今までにそんな状態のそれを見たことがない。

 足と手はおよそあり得ない方向に曲がっている。まぶただってくっきりと開かれているのに、そこからこぼれ落ちそうな濁った眼球は、どこでもないどこかを見詰めている。

 はもう酸素を吸わない。それはもう二酸化炭素を吐き出さない。朽ちて淀んで腐れて落ちて、かえるべき土もなく生き物のことわりから離れ、ただだらしなく地面に広がるだけの薄汚れた肉の塊。


 そして何よりも、におい。

 は、胡乱な肉の人形から垂れ流される、どす黒い液体から漂っていた。人間が放つにおいじゃない。少なくとも、私の知り得る限り人間はこんなにおいを放たない。

 むせるような熱がたちこめる。焼け付くようなそれではなく、肌にまとわりついて五感を支配するような、煩わしい熱、温度、空気。



 私はを、知っている。


 これは、血のにおいだ。


 そう気付いた瞬間、私はひどく喉が渇いてしまった。

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