第125話 盗難対策
「一番心配なのは事故だけど、その次は盗難かな」
お弁当のたまご焼きを箸で切りつつ
「メグちゃんは対策どうしてる?」
「……ハンドルのロック」
「それほぼノーガードだね……カバーとかは?」
「してる。雨に濡らしたくないから」
「カバーだけでもけっこう効果あるらしいよ」
オイシイ話というのはそうそう無い。
それは窃盗という行為も同じことで、法律に反しているという大きなリスクが常につきまとう。そのためバイクを狙う輩も、どうせ盗むならリスクに見合った高価なバイクを狙いたいと思うの心情だ。
その心情を見越した時、カバーのかけられたバイクをどう見るか。中にどのようなバイクが入っているか分からないし、どのような盗難対策が施されているのかも知れない。中身を確認しようとするのも手間だし、その行為自体が人に
なれば、カバー付きのバイクは相手にせず、他の獲物を探した方が合理的だ―― 違法行為な時点で合理的もなにもないが。
「なにか買ったの? チェーンとか」
「ワイヤー? を金属でコーティングしたやつ」
「リンクロックってやつだね。ワイヤーより頑丈でチェーンより軽い」
「とりあえずだけどね」
バイクの防犯はやり過ぎるということはない。できうる限りの盗難対策をすることが推奨される。バイクに施した盗難対策が多ければ多いほど、窃盗犯からは手間がかかる車体となり、手を出されにくくなるからだ。
「バイク買ったばっかりなのに、けっこう調べたんだ」
「盗まれるとつまらないしね」
それはその通りだ。
自分も防犯については調べてはあった。しかし自宅の周りは治安が良いと感じているので後回し後回しになっていた。いい機会なので本腰を入れて対策をすることにした。
おなじみの用品店で防犯グッズを物色する。
バイクの防犯において最強と言われているのはシャッター付きのガレージだ。これはそもそも「バイクがそこにあることを知られない」という点で非常に高い防犯効果を有する。盗めるバイクがあると認識されないのだから、それは確かに最強だ。しかしどのお宅にもシャッター付きガレージがあるわけでも、用意できるわけでもない。理想とは大抵の場合、現実の少しばかり先にある。
実現可能性の高い効果的な防犯措置の筆頭は【地球ロック】と呼ばれる方式。地面に対して強固に固定された柱やフェンスなどの構造物に、チェーン等を使ってオートバイを連結する方法だ。
バイク盗難とはすなわち、所有者が決めた
(
試しにチェーンを持ってみた。1メートル程度の比較的短いチェーンでもかなりずっしりしていた。チェーンを切断できる工具に対抗するために、輪のひとつひとつが太く作られており、それだけ
そこで目に映ったのが【ディスクロック】と呼ばれるものだった。
タイヤに固定されている、車体の減速に使用される円盤状の部品に装着することで、タイヤの回転を妨げるロック方式だ。いま手に取っているものは、ディスクにロックした後に衝撃を受けるとけたたましい音が鳴り響き、周囲に異常を知らせる機能があるものだ。手のひらサイズでとても軽い。
ディスクロックは小さくてシンプルな機構が特徴だ。シンプルなので頑丈に作ることができて、小さいので持ち運びに適する。さらに小さいということは破壊しにくい利点があった。というのも、チェーンはバイクの周囲からひっぱり出して大型の工具で切断できる可能性を残すが、ディスクロックは小さく、さらにバイクの部品に囲まれた位置に取り付けられるため、工具が使用されにくくなる。
(とりあえずこの2つにしとこう)
チェーンロックとディスクロック。ディスクロックは持ち運ぶこともあるだろう。
チェーン2つにして前輪と後輪を地球ロックすることも考えた。しかしチェーンは持ち運びに難があることと、チェーン2つだと1つの工具で両方のチェーンを突破されてしまう恐れがあることに思い至った。
2種類の方法でロックすれば、不届き者に2種類のロックに対して準備をすることを強要することができる。それだけ相手に面倒を押し付けることができるということだ。そして、不届き者たちはそういう面倒が大嫌いだ。それなりの効果が期待できるに違いない。
翌日早速そのことを未天に話すと、彼女もディスクロックを導入したようだった。
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