第96話 東京:首都圏



 第2東名は御殿場で東名と合流した。


 御殿場インターチェンジでは渋滞が発生していた。渋滞の列が今にも本線に伸長してきてしまいそうだ。列を為している大多数はアウトレットを目指している人々だと思われる。ただの週末でも激混みするらしいので、お盆ともなれば想像を絶する人出となっているだろう。


 あの列に並ぶような用事じゃなくて良かった。そう考えながら御殿場ICを通過する――あとでそれ以上の人混みに遭遇するとも知らずに。


 足柄サービスエリアを過ぎたあたりから、東名は登り坂に突入した。先ほどまでと打って変わって道幅は狭くなり、山を切り開いて何とか道を通しましたといった様相を見せ始める。


 カーブが連続して直線と呼べる箇所がおよそ存在せず、トンネルも何度も現れた。トンネルの方は内部の路面がウェットだったりして、久しぶりの水気につい体に力がこもった。


 道の傾斜が落ち着いたのは大井松田と呼ばれるインターチェンジを過ぎたあたりだった。馴染みの無い地名を目にして、完全に神奈川に降りてきたという感じがした。


(神奈川は山中湖の三国峠で一瞬だけ入って以来かな……?)


 そもそもあれを神奈川に入ったと表現して良いものか激しく疑わしい。だが道路看板にも神奈川と書いてあったのでおそらくOKだ。


 昔からある道路だろうに、車線は3車線になっていた。静岡の東名なんてインターチェンジの近くがかろうじて3車線になっているだけで、あとはひたすら2車線だけだというのに。やはり首都圏はひとあじ違う、といったところだろう。






 そんなこんなで辿り着いた海老名サービスエリアは、まだ8時前だというのにごった返していた。自動車で来ていたら駐車スペースを探すのに苦労しただろうと思うほどだ。


 ここへ到着する寸前に通り過ぎた海老名ジャンクションなど、一体どこからこんなにたくさん自動車が集まったのかと思うほどに自動車がひしめいていたし、オートバイなんて少しも珍しくなかった。時折見える高速道路の外、特に東の方は地平線の向こうまで街が続いていて、首都圏に入っていることをひしひしと感じられた。


 バイク置き場は親切にも休憩施設に隣接して設けられていた。施設に沿うようにずらりと駐車することができ、さらに西と東で2か所ある。休憩施設の出入口に近く屋根もある西側の駐車マスはすでにだいぶ埋まっていた。なので少し離れるが、施設出入り口東側の駐車場にエストレヤを駐車した。屋根がないが、ゆえに駐車マスにも余裕があった。


(ドラッグスターだ)


 2マス空いて右隣。車種を判別できる数少ないバイクの1つであるドラッグスターも駐車されていた。ナンバープレートに緑の枠がないので、まさかドラッグスター250だろうか。深紅のカラーリングが印象的だ。


(この親近感よ)


 ドラッグスター250も、その名の通り排気量は250ccだ。それほど高速度域が得意というわけではあるまい。きっと一生懸命ここまで走ってきたのだ。ちょっと撫でてやりたいほどだが、人様のものなのでやめておく。いやそれにしても、同じ250ccとは思えない重厚感は見事なものだった。


(メロンパンおいしい……)


 名物なのかやたらと推されているメロンパン。1つ購入してその辺の椅子に座って頬張った。いくつものお店で売られていてどれを買ったものかと迷ったが、ちょうど焼き立てのものが陳列されたお店のメロンパンをいただくことにした。


 クッキー生地の部分はサクッっと、内側の生地はもっちりとしていて、さらに砂糖のザクザク感だったりメロンの甘いフレーバーなどが楽しめる1つで色々おいしいメロンパンだった。近くの売店で売っていたアイスコーヒーとも合う。焼き立ての香ばしさもたまらない。あっという間に食べつくしてしまった。


(さて、問題はここからだ)


 海老名は東名最後のパーキングエリアだ。この先に進むと、道は間もなく首都高に突入する。


 首都高は複雑にんでいて、一度道を間違えると目的地とは全く違う方へといざなわれてしまう。地図でできるだけ調べようにも、立体的に交差したいくつものジャンクションを完全に理解するのは難しい。


(調べるだけ調べたけど……正直自信はない)


 道筋も一応スマホにメモってある。【東名→首都高3号渋谷線→大橋JCT→C2→湾岸線】……うん、お前は何を言っているんだという感じだ。土地勘も一切ないので、どこがどこかなのかさっぱりわからなかった。


(しかしまあ、行くしかない)


 リミットまであと2時間しかない。万が一に備えるために、時間的余裕はできるだけ確保しておきたい。ならば早め早めの行動が吉だ。メロンパンの包み紙を捨て、アイスコーヒーを飲み干したら、私は再び炎天下に立ち向かうのだった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る