アステリズムは空に無い

月啼人鳥

1章

第1話 星の名を持つオートバイ



 親戚の集まりから抜け出した。


 ひどく退屈なイベントだった。映画だったら金を返せとののしりたいレベルだ。大人たちは話のネタにこういう場所に子供を連れ出したがるのに、こちらの迷惑は何も考えていないのだ。


 特に気に入らないのが、ちょっと気を抜こうものならこちらに話を振ってくることだ。振ってくる内容はここ数年同じで、『学校はどう?』『進路は?』『恋人はできた?』――正直うんざりだ。さらに悪いことに、弟に彼女ができたせいで『恋人はできた?』攻撃は私が集中砲火を浴びている。


 数歳年上の従姉がいなくなったことが、退屈に拍車かけていた。

 従姉がいれば二人で雑談していればいいので少しは気が楽だった。しかし彼女は結婚して、今は海外で暮らしている。この集まりには顔を出さなくなった。うまくやったと思う。


 広い敷地をふらふら歩く。広いといっても田舎の家なだけで、親戚の家が特別裕福なわけではない。周囲には山野河川が広がっていて、近所には同じくらいの敷地を擁するご家庭がゴロゴロある。


 安くて広い敷地に、住めそうなほど巨大な農機具小屋と、プレハブ製の物置と、家族の人数と同じ台数の自動車が並べられていた。今は集まった親戚たちの自動車も並んでいるが、それでもまだ敷地に余裕があった。



 その中で見つけた。



「?」


 扉が開け放たれた農機具小屋の奥の方。

 車より小さく、自転車より大きい何かがあった。カバーが掛けられていて、カバーには砂埃が積もっている。


(……そういえば前にお従姉ちゃんが)


 バイクを買ったとか何とか言っていた気がする―― 当時の恋人の影響で。

 昔の恋人との痕跡を放置しておくのがかえって従姉らしい。あの能天k……天真爛漫さなら、きっとどこでも生きていけるだろう。私とは違って。


(どんなバイクなんだろ……)


 そういえば見たことがなかった。話題になることもなかったし、きっとほとんど乗られていないのだろう。私はソロソロと近づいて、バイクカバーのファスナーを開き、そっとカバーを取り払う。


 そうして現れた美しき姿に、私は呼吸を忘れていた。


「……!」



 星の名を持つオートバイ【エストレヤ】との邂逅だった。



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