桜の君

夏木ホタル

第1話桜の木の下

 ねぇ、桜の木の下って何が埋まってると思う??




「ただいまっと」

 駅から徒歩20分。そこに実家がある。大学へ通うために上京してからは故郷に全く帰えれなかった。

 先週無事に大学を卒業し就職先も決まったので、帰ってきたのだ。


 うん!相変わらず何もねぇ。駅前のカフェ·····というなの駄菓子屋。目の前には見事に田畑と山々しかない。自然豊かなのはいいことだと思うし、俺自身もこの田舎な故郷が好きだ。がしかし、やはり都会ほど便利じゃないのはなぁ。と思ってしまう。

 河川沿いの桜並木を歩いて実家を目指していく。ちょうど満開のソメイヨシノが風に煽られて花びらをチラチラと舞い落として中々綺麗な景色を楽しみながら歩みを進める。

 あー、確かあのときも桜が舞い散ってたなぁ。


 俺、こと長谷川晃はせがわあきらには高1~上京するまでの間に彼女がいた。美人で優しくて儚げで······なんで平凡な俺なんかと付き合っているのか不思議なくらいのやつだった。

 喧嘩もたまにしてたけれど、不思議と別れ話なんかは毎回出てこずに、『あー、多分一生コイツと居るんだろうな~』って思っていた。照れ臭くて本人には言えなかったが。

 そんな感じで上手く付き合っていた高3のある日、彼女は姿を消した。この河川沿いで花見デートをしようと約束していた日だった。

 その日の前日些細なことで彼女と喧嘩してしまった俺は『まぁ、まだ怒っててこねぇのかもな』などと思い、お詫びのつもりで彼女の好きな和菓子を購入し家へ向かった。

彼女はすでに姿を消していた。おじさん、おばさんいわく、夕方に散歩に行ったきり帰って来なかったらしい。

 必死に探して、警察の手も借りて何日も何週間も探して探して探して探して。今だ死体さえ見つかっていない。











 あの子は綺麗だから見初められて、桜に拐われた











 近所のばーちゃんの言っていたことを今でも覚えている。そんな非現実的なことあるわけねーのに。











 家に着いた俺は、昼飯たべてご近所に適当に挨拶をすませて、親に少し出てくるっと言ってスコップ片手に桜が咲き誇る山に向かった。





















「長谷川さん家の所のこ、帰って来るなりスコップもって山に行ったらしいわよ」

「まだ、探してるのかしらね。めぐみちゃんのこと」

「可哀想に」

 可哀想に可哀想に可哀想に可哀想に可哀想に可哀想に可哀想に。


 ああ、本当になんて健気で可哀想な子なのかしら。恵ちゃんは本当に愛されてるのね。









『俺をこんなに嫉妬させてさぁ、まだ愛され足りなかったのか恵』

『──きら、晃!ご、めん私が、私が悪かったからもうやめて··········』

『なに言ってんだ。俺らはずーっと一緒だもんな·········なあ恵??』

『ひっ·········ぐぁ················ぁきらぁ』










いや、案外ばーちゃんの意見は間違っちゃいねぇかもな。

 事件にせよなんにせよ、物事には理由がある。もちろん彼女────恵がになっているのも。

 桜が咲き誇る山の中央には少し開けた場所があってそこには大きな垂れ桜が咲いている。周りが散り始めているせいかその垂れ桜付近はまるで淡いピンク絨毯でも引いてあるようだ。

そんな中に咲き誇るこの樹はどの桜よりも綺麗で妖艶、かつ儚げな美しさを放っている。

根元付近をザクザクしばらく掘って行けば·····················ほら、いた。


 そこには桜の根っこに絡まれている大きなホルマリン瓶があった。

 そのなかには一人の少女が入っていた。眠るように美しい姿で。

ばーちゃん。恵は拐われたりなんかしてねぇよ。あの日からずっとずーっとここで、俺を待っててくれたんだ。


「ただいま、恵。寂しかったよな。俺がいなくて。しばらく一人にさせてごめん。でも」


 ───これからはずっと一緒だぞ。

ホルマリン瓶にチュッとリップ音を立ててキスをする。

ゴォッっと風に煽られ舞い散る桜の花びらがすべてをかきけした。







 翌日、咲き誇る桜の元でふたつの死体が発見された。長谷川晃はホルマリンケースを抱いて亡くなっていた。













 ねぇ、知ってる??桜の木の下には───────死体が埋まってるんだって。











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桜の君 夏木ホタル @N_Hotaru

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