6月6日 5:30 悪魔

 流石に眠くないといえば嘘になるが、気分が高揚しているせいか意識はハッキリとしている。少し手袋をしているせいか、手汗が気持ち悪い。


 今年は11人目で奇数の年なので、何らかの加害者を被害者にする。今回は5年前に、いじめによって男子高校生を自殺させたグループの主犯格。自殺した高校生は、毎日学校で暴力を受け、恥ずかしい写真を撮られたりしていたが、主犯格は実際には手を汚していないため、特にお咎めは無かった。


 しかし、いじめていたメンバーからは、今回の標的から問い詰められる事が怖かったという発言もあった。そして最初にいじめると言いだしたのは、今回の標的だった。

 結局、刑には処されず、転校することで終幕している。


 高校生が自殺してから5年。23歳の今回の標的は、早朝までのガソリンスタンドバイトを終わらせ、6時前。誰もいないマンションの1室に帰宅するはずである。


 見るからにガラが悪そうな見た目をしている。ガソリンスタンドの制服は腰パンし、何度もため息をつきながら、帰路につく青年の前を歩く。


 同じエレベーターに乗り、別々の階を押す。古いマンションではないが、何故か監視カメラがない。わざわざ、部屋まで待つ必要はない。


 後ろから縄で勢いよく飛びつき、思いっきり首を絞める。血が出ない方が、証拠は残りにくい。


 暴れて、通報ボタンを押そうとすることは分かっているため、全体重をかけながら一気に後ろへ引く。我ながら動くエレベーターの中で殺害とは、大胆なものだ。


 このマンションは、既に耐震工事の為に入居者の殆どは引っ越しか、ホテルへ移動している。被害者も来週には、ここを出ている予定だった。力の抜けた標的を見下ろす。


 来週には、ここを出ていく予定だったのに、こいつには来週が来ないと思うと何故だか涎が出てくる。改めて私は異常者だと感じていた。


 最上階のボタンを押して、死体を乗せたままエレベーターは止まる。下で誰かがボタンを押すまでは、彼はこのままだろう。

 私は、非常階段でゆっくりと歩いて1階へと降りる。マンションの入り口でエレベーターの階数表示が最上階になったままであることだけ確認し、外へ出る。


 時間を確認すると7時半。快感の反芻をしたいところなのだが、まずは着替える所を探さなくては。

 どこかのテナントビルに入り、手袋を外す。そこから、何か所か着替えられるところで数回着替え、新幹線に乗ろう。

 昼から、職場に出る。今日は仕事が手に付かないだろうな。


 トイレの鏡に映る自分に、悪魔めとそっと呟いていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る