下弦の月

深谷田 壮

第1話

 夕日が沈んでゆく。黄昏時、そう表現してしまうと、この子の名前を忘れたり、もう会えなくなったり……。映画の見過ぎか。

 彼女の伏見と、今日は山デートをしている。伏見とは付き合って二年が経つ。買い物デートはもう行き尽くしたので、三連休を有効活用し、秘境のような絶景スポットに来てみた。中日なので、一日かけてこの山を登って降りている。

「綺麗な夕日だね」伏見が呟いた。

「そうだね」僕は頷いた。

「それにしても、眠いね」

「寝てもいいよ」

「襲わないでよ」

「分かったよ」

「そんなこと言って、結局襲うんでしょ」

「バレたか」この二年間で軽く十回は伏見を襲ったことがある。しかも、不意打ちで。なので、否定はしない。

「これ、飲む?」伏見はさっきまでチューチュー吸っていた紙パックを差し出した。

「あぁ、飲むよ」僕は受け取り、半分くらい飲んだ。

「それじゃあ、私寝るよ」そう言って、伏見は横になり、目を閉じた。心なしか、伏見の頬がいつもより赤い。僕に襲われるのを期待しているのだろうか。

 僕も眠くなった。今日は襲わないでおこう。

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