Notes of Rainbow Noise -予習復習・裏話集-

市亀

#1 シリーズ全体の序論

 まずは、こんなコーナーまで目を通してくださることに感謝を。

 本編を読んでくださっている方は「あれってそういうことか」、まだの方は「そういう話なら読んでみるか……?」という気分になってくださるように願いつつ。


 さてさて。

 Rainbow Noiseの連載開始から2年半。高校1年生だった主人公たちは2年生後半に差し掛かり、キャラクターは30人を越え、自分でもよく続いているな……と思う反面。

 入り組んだ人間関係を色んな視点から描いているものの、(僕のスキルが追いついていない所為で)だいぶ分かりにくいことになっているのでは、と思いまして。

 それで読み進めるのがしんどくなったり、読み進めてはみたものの「前にどんなことあったっけ……」と思い出しにくくなってしまったり、という方は少なくないのではと思います。

 また、僕の意図なり読んでほしいポイントが伝わっていない可能性もだいぶあるように思えて。それを書き手が言っては興醒めという人もいるかと思いますが、僕はクリエイターの本音を見聞きするのが好きな側でして。


 そこで本ノートでは、エピソードごとに見どころをまとめつつ、あるいは先の展開を予告しながら、裏話などのアレコレを書いていきます。

「先にどんな話か知りたい」「途中から読みたいから、そこまでを知りたい」という未読の方も、「読み進めるにあたってこれまでを整理したい」という読者の方も、ぜひご覧ください。


 まずは、シリーズ全体の話から。

 僕が描こうとしているのは、

 ①「恋の形」」を巡る葛藤と、結ばれるばかりではない「ハッピーエンド」

 ②自分の欠点と武器を、「好きな人たち」とどう関わらせるか

 ③多様な個性、背景を持ったメンバー同士の、友情や恋の重なり合い

 ④合唱部員を中心とした、様々な音楽への挑戦

 ⑤別れと、継承される想い


 ……という風に言えるでしょうか。まあどれも重なり合ってますし、まだ手を付けてない箇所になるのですが。

 今回は各要素についてご紹介していこうと思います。


 まず、①で表した「恋の形」というのは、いわゆるSOGIのことです。ただ、(今のところは)性自認に関する葛藤はあまり描いていないので、性的指向と言った方が適切でしょうか。あるいは「LGBT関連の話です」と言った方が伝わりやすいのかもしれませんが、僕はこっちの表現はあまり好きではなく。

 作中の時期からしても、SOGIというワードがあまり馴染んでいる頃の話ではなく、加えて社会・人権問題として描いている意識ではないので、主に「恋の形」という表現を用いています。


 明らかになるのは後半になってからですが、ヒロインである詩葉うたはは「レズビアンだということに気づき始めて、動揺する」という女の子です。

 そんな詩葉に、秘めた恋心を抱き続けているのが主人公の希和まれかずです。「多分、詩葉は僕を恋人としては好きにならない」という予感を抱きながらも、彼女をきっかけに合唱部に関わり、友情をさらに深めていき。

 その予感が確信に変わってから、引きずりすぎた気持ちとどう向き合うのか……というのが、ドラマ要素の中心になっていきます。


 希和が詩葉と「恋人として」結ばれない結末だとしても。

 それでも、「このふたり、いいな」と思えるような、友情以上の「尊い関係性」を描けたらなと思っています。


 そんな希和と詩葉の間に現れるのが、後輩の陽向ひなたです。本作のヒーロー役。陽向は「ビアンであることを、(比較的)もう受け入れている」女の子で。詩葉に惚れて、かつビアンなのではと早くに気づいて、アプローチをかけ始めて。詩葉もそれに対して、心を開いていき……

 ですので、本作は「ガールズラブ」だと言い張っております。主人公は男子ですけど……まあ希和が「主人公っぽい」男子ではないのも確か……


 希和にとっては、恋してしまったビアンの女の子とどう向き合うか。

 詩葉にとっては、ビアンだと気づいた自分とどう向き合うか。

 陽向にとっては、好きな女の子をどう幸せにするか。


 そんな、変わった三角関係の話であり。

 また彼ら以外でも、SOGIによる葛藤を秘めたキャラは出てきます。その「誰も悪くない」すれ違いに胸を締め付けられるのに、多数派も少数派もなく。

 ただ、ひとりとひとり同士が、めぐり逢い、すれ違う。



 ②について。

 好きな場所で、憧れる人たちの中に混ざりたい、しかし頑張っても思うようにいかない……「やりたいことに向いてない」という自己嫌悪だったり。

 一方で、それほど価値あると思っていなかった自分の一面が、意外な形でチームに良い作用をもたらしたり。

 そんな、「自分の色」を巡る悩みと成長は、人の数だけあって。


 希和の場合は、合唱部に憧れて加わったものの、とにかく歌が向いていなくて。

 ただ彼は、元々は校内新聞の取材として合唱部に関わっていたり、また人知れずウェブに小説を上げてたりなど、言葉の感覚は人より鋭いんですね。その強みが、合唱部での歌詞のアレンジとか作詞に活きてきたりもします。

 また希和は、「学校で、合唱部でいる自分」と「ウェブを介して小説を書いている自分」をはっきりと分けてます。この分けられたペルソナ同士が、どう作用しあうのかも描いてます。

 この、コミュニティによって自分を分けるという思考、少なくともカクヨムにいらっしゃる方なら覚えがあるのではないでしょうか。


 他のメンバーは、希和ほど内面に踏み込んだ描写ではないのですが、それぞれに得意技や癖、コンプレックスがあり、部が新たな挑戦をする度にそれらが浮き上がるというチーム物のような楽しみ方もお届けしたいです。



 ③について。

 要は僕の好きなコンビ・グループ詰めであり、CP詰めです。

 合唱部だけでも、現時点で4学年に17人。そして最近は大学生組も参戦してきたため、世代や性別に関わりなく、とにかく矢印が多いです。

 友情だったり恋だったり、それらが入り混じっていたものも含め。

 友情面だと……多すぎるので割愛ですが。


 はっきり恋愛に分類できるCPだけでも、背景が重すぎる幼馴染夫婦(真田さなだ×紅葉もみじ)に、バカで漫才ノリな友人が恋愛対象としても気になる(陽子ようこ×中村なかむら)だったり、万能お姉さんだけど小悪魔な先輩は彼氏の前だと超甘えん坊(和可奈わかな×弦賀つるが)だったり。

 またその組み合わせに横恋慕も入ってくるわ、それでいて「恋敵だけど仲間としては大切」感情も入ってくるわで、だいぶ入り組んでいます。


 だから、きっとあなたの好きなキャラ、好きな組み合わせが見つかるはず……の反面、「こいつら何だっけ」が起こりやすいシリーズでもあると思います。ただ、学園でCP・コンビ推ししたいって方には、僭越ながらオススメしたいです。



 ④の音楽要素。

 合唱部が舞台ではありますが、「全国行くぜ!」的なスポ根要素は薄いと思っています。勿論、章によってはコンクールの上位を目指すムードが部内で強まっているのですが、そのための具体的な過程はあまり描いていません(書けないとも言う)

 むしろ、目指す中での心理の変化の方に焦点は寄っていると思います。


 加えて、コンクールの評価対象となるようなスタンダードな合唱だけでなく、エンタメに振った洋楽カバーだったり、学外とのコラボによるゴスペルステージだったり、色んなジャンルに手を出していく合唱部です。

 ちなみに、僕は高校時代が合唱部で、ゴスペルにもちょっと縁があって。けど、全然上手くなれず、思うように歌えないばかりで。当事者だったからこそのディティールもあるにはある(お褒めも頂いています)のですが、それ以上に上手くいかなかった苦さと、それでも楽しかった瞬間の方が、実感を持てて書けていると思います。



 最後に書いた「別れと継承」というのは、今の時点だと言えることが少ないんですが……プロローグにあたるprelude を読んでもらえると、気配はすると思います。

 ちなみに。Rainbow Noiseは、現在連載している「雪坂高校合唱部」編では完結しないです。時系列では希和たちの高校卒業後に、たびたび登場しているつむぎを中心としてがらりと方向の変わったストーリーが展開される予定です。この「別れと継承」も、その続編で主に描かれるテーマですね。


 ただ、高校編と続編、それぞれ単体でも話が分かるようには書いてます。

 とはいえ、いま載せている話を気に入ってくださった方には、最後の最後まで見守ってくださればと思います。

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