ネモフィラとアルメリア_9
二人が朝食を終えたとき、アルが主人に向かって尋ねた。
「なあ宿屋の主人、ちょっと聞きたいんだが、この街で武具が買える場所はあるのか?」
「武器が欲しいのかい?」主人はちょっと驚いたような顔をした。
「大したものじゃない。護身用に、これから旅を続けるのに用心しておきたいんだ」
「そうことね。しかしねぇ、」主人は考えこんだ様子だった。「なにぶん、ここは大した都市じゃないからなぁ。鉄砲屋なんてものはもちろん無いし……」
それから何か思い出した表情をして、「そうだ、ちょっと待ってくれ」そう言って店の奥へと行ってしまった。
「武器なんて必要なの?」ネモは小声で彼に聞いた。
「備えるに越したことはないはずだ」
「それは、そうかもしれないけど……」
彼女はアルが不必要に人を傷つけるようなことをするのではないかと心配だった。
「まあ、お守り代わりさ。滅多に使うことはないだろう」
「そう、それならいいけど」
そうして、主人が何か言いながら戻ってきた。小さめの短剣を手にしていた。
「ちょっと錆びてるけど、これはどうだい?」
そう言ってアルの目の前に差し出した。「俺んとこの爺さんが昔、探検家やってたときに使ってたものだ。物置にしまっとくよりは、こうして必要とする誰かに使ってもらった方がいいだろう」
アルは受け取ると、じっくり眺めた。鞘も持ち手部分も宮殿にあるのと比べたら見た目は質素なものだが、いかにも実用品といった趣向だった。鞘から抜いてみると、刃にはところどころに汚れがあったが欠けもなく、しっかりした鋼でつくられているような気がした。
「ほんとうに貰ってもかまわないのか?」
「ああ、いいよ。どこまで役に立つかは分からないけどね」
「いや、これでも充分心強いと思う」
「そりゃ良かった」
主人は片付けの続きに戻りかけて、言葉を続けた。
「それと、大したアドバイスじゃないがせっかくだ。一つ伝えておこう。冒険心に動かされるのはいいことだ。だがな、お二人さん、いざという時は引き際も心得ておくんだよ」
「引き際?」
「俺の爺さんが言ってた言葉だ。親父はその言葉に従って、途中で冒険家を辞めた。それで、結婚して俺が生まれて、親父は去年病気で死んじまったが、今自分がこうして宿屋を継いでるってわけだな」
「なるほど、リスクより、生活の安定を取ったのか?」
アルの言葉に、主人は首を振った。
「勢いで進むのは簡単だ。でも、いざ危険な時に引き返すのは、思ったより勇気が必要らしい。親父は冒険仲間の多くの死を見てきたみたいだ。それで、冒険家や旅人に、少し冷静になって考えることのできる場所を作ってやろうと、この宿屋をはじめたんだと」
それから少し自嘲気味に笑った。「今じゃすっかりさびれてるけどね。昔は北を目指す冒険家が多く立ち寄ったもんだよ」
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