ネモフィラとアルメリア_8
ネモは、もう少し明るくなってからベッドから出ようと思ったとき、建物の中で物音が聞こえた気がした。もしかすると、昨夜の宿屋の主人かもしれないと思うと、起き上がった。
アルの方は、まだぐっすりと寝ている様子だった。ネモはゆっくりとベッドから降りると、部屋を出たて一階へ向かった。
食堂の厨房の方から人の気配と食器や薪の燃える音がした。きっと、朝食の準備をしているだろうと彼女は思った。
厨房の方に顔をのぞかせようとすると、宿屋の主人はネモの存在に気づいたようだった。
「おや?お嬢ちゃん、早起きだね」
主人はタオルで手を拭いながら厨房から出てきた。
「おはようございます。昨晩はありがとうございます」
「なに、別にどうってことないよ。夜遅くに旅人が来ることは珍しいことじゃないし。それにこの都市で宿屋はうちだけだしな」
「そうですか?」
「まあ、そんなこと言ったってこの街には大したものがあるわけじゃないし。春と秋くらいは多少商人が来るくらいかな。今だってお客さんは、君たちと旅人がもう一人いるだけだ」
「へぇ、そうなんですね」
「さてさて、」
主人は厨房の方を振り返った。
「朝食は今準備中だから、もう少しお待ちを」そう言って、また厨房へ戻っていった。
彼女もそれから、踵を返すようにトイレに行き、顔を洗ってからまた部屋に戻った。アルはまだベッドの上で寝ていたが、彼女が部屋に入ってきた物音で目を覚ました様子だった。
「ああ、朝か?」
「おはよう。もうすぐ朝食ができるみたいよ」
「そうかい」
そうして、彼は大きくあくびをすると起き上がり、ベッドから出た。
「君はえらく早起きだな」
「ええ、こんなものよ」
「あるいはそれとも、寝ないのかい?」
「え?」
「冗談さ、冗談」
彼はそれだけ言うと部屋を出て行った。ネモはため息をつくと窓辺に近づいた。カーテンと窓も開けて、朝の外の空気を吸って深呼吸した。
朝の空気は澄んでいて心地よい冷たさだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます