カモミールとライラック 農業の都市_2

 ひとまずはカムとララも食事にありつくことにした。

 いまだに、似顔絵は商人たちの手から手に渡っている様子だったが、有力な手掛かりの声はまだ上がっていなかった。

 そのとき、一人の女性商人が、近づいてきて声をかけた。

「もしかしてあんた、カモミールかい?」

「ああ、そうだ」カムは怪訝そうな顔をしてみせた。「どっかで会ったことがあるかな?」

「いいや、これだよ」彼女は折りたたんである紙切れを取り出して、彼に手渡した。

 カムが受け取って開くと、それは手配書の一つだった。

「こいつはいいね。俺を捕まえて突き出そうってか」苦笑して答えた。「うん、なかなかの額じゃないか、え?」

「違うよ。幾つか聞きたいことがあるのさ」

「食事をしながらでいいなら、構わんぞ」

「どうして賞金首になるような人が人探しを?」

「別に、」カムは肩をすくめた。「裏稼業的なことが専門じゃない。何でも屋みたいなもんだからな。それに彼女の依頼だよ」

「そう。それから、ジーニー、あるいはジニアって奴は知ってるかい?」

「ああ、というかつい最近も一緒に仕事をしたよ」

 カムは知り合いの名前が出てきて少し警戒心を緩めた。

「やっぱり、知り合いなんだね?」

「まあ、そういうことだな」

「一つ頼まれてくれないかい?」

「内容にもよるがな。それより、君は?」

「これは失礼、あたいはリナリア。ジーニーには前に何度か世話になったことがあってさ。でも、先日会ったときは時間が無くって、」

「伝言でもあるのか?」

「手紙を渡してほしいのよ」

 そう言いながら彼女は便箋用の封筒を一つ取り出して見せた。カムは顎をさすりながらそれを見つめた。

「ほう、だが、自分で渡すか、郵便屋にでも頼めばいいんじゃないか?」

「信頼できる人に頼みたいんだよ。あんた友人じゃないかい?」

「まあ、そのくらいなら頼まれてもいいが、いつになるかも分からんぞ。それに行き違いになるかもしれん」

 そう言いつつも彼は、その封筒を受け取った。

「いいよ、あたいだって忙しいし、」

 そのとき、食堂の向こうの方から大声が上がった。

「人探しの嬢ちゃん!見たことあるって言うのがいたよ」

 声の方を見ると大柄で髭面の男が似顔絵を振りますようにして立っていた。

「でも、だいぶ前のことだ」横にいる小柄な男が呟いた。

 どうやら、その彼がプラタナスを見かけたことがある様子だった。

「いいんだよ、少しでも情報があるなら伝えてあげないとさ」

 二人はこちらに近づいてきた。そして小柄な男が話し始めた。

「海沿いの都市、港町だった。交易の都市だったよ。僕が見かけたのは、なにか人と口論していたんだよ。だから覚えてた」

「なるほど、海沿いの都市ね」

 すると大柄な男が口を開いた。「こいつ、また沿岸方面に向かうからよ。荷馬車に乗せてってもらうといいんじゃないか?」そして小柄な男の方を向いた、「どうだ?いいんじゃないか?」

「ま、まあ、どうでもいいんだけど、」

「迷惑じゃなければ、それもいいかもな」

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