カモミールとライラック_7
その夜、二人は明日の出発に備えて各々の荷物をまとめていた。そしてライラックは、今一度荷物の点検をしていたカムに声をかけた。
「ねえ、カム、ちょっといいかしら?」彼女はためらいがちな様子だった。
「なんだ?」
ライラックはカムが手渡した銃を見せながら言った。
「この銃なんだけど、私は銃なんて扱ったことないのよ」
「そうかい?」だが、カムは少し得意げな様子でつづけた。「まあ、撃ち方は途中で教えるさ。都市の外の、人の邪魔の無いとこで試射といこう。それと、これは大事なことだが、不用意にトリガーに指をかけるなよ。暴発が一番厄介だ。初心者はよくあるんだ」
「そうなの?」
「ああ、とりあえずはホルスターに入れておきな。しばらくは使うことはあるまい」
「分かったわ」ライラックは言われた通り、銃はホルスターへ仕舞った。「それで、最初はどこへ向かうつもり?」
「ひとまず、海岸沿いの都市へ行ってみようと思っている」
「どうして?」
「人が集まる大きな都市が多いからな。それにたいてい、当てがない旅人ってのは海沿いに行く傾向がある。まあ、なにか情報が得られるかもしれない。それに移動するにしても、船に乗れば安いし楽だ」
「そう」
「そうだ、ライラックは海を見たことあるか?」
「いえ、ないわ。湖ならあるけど」
「そうかい。じゃあ、楽しみにしとくといいさ」
そうして二人は、各々の荷物の準備を済ませると早めに寝ることにした。
翌朝、カムはついでにと思い、似顔絵を宿屋の夫婦に見せた。
「なあ、この顔見たことあるか?」
夫人の方が手に取ってみると、夫も覗き込むようにした。
「さあ、どうかしらね」「見たことはないなぁ」
そのとき、近くにいた客が会話に割り込んできた。「俺にも見せてくれよ。もしかすると知り合いかもよ」
話に割って入ってきた中年の男は、旅をしている商人風の人物だった。大台のジョッキ片手に、朝っぱらから少々酔っている様子だった。
「おお、見たことあるぞ!」男は大声で言った。
「本当か?」
「ああ、どっかで見かけた」
「本当なのか?」カムは疑い深そうな表情で、再度聞き返した。
「ああ、あれは港街だった。それは確かだよ。どこの都市だったまでは忘れちまったが、見かけたのは確かだ」
だが、それ以上の有益な情報は聞きだせなかった。
「あまり、参考にはならなさそうね」ライラックは少し残念そうだった。
カムは肩をすくめてみせた。とにかく、この程度のことは序の口だった。ときには平然と、情報提供の見返りに金品を要求してくる連中もいる。しかもたいてい、その場合は当てにならない情報のことが多い。なにか有益な情報にありつくには、情報屋のとこに行くのが一番だった。
いずれにしても、まだ旅は始まったばかりだった。この程度で一喜一憂していては話にならなかった。
「まあ、とにかく海沿いの都市へ行くのはこれで決まりだな。気長に探そうや。焦ってもしょうがないぜ」
「それもそうね」
それから二人は朝食を済ませて、いよいよ出発することにした。
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