カモミールとライラック_3

 カムは二人の賊が来ていたときよろしく、近場の灌木に身を潜めていた。馬に乗った男は傍を通り過ぎると、ライラックのところで止まった。奴が馬から降りようとするのを確かめたカムは、素早く、かつ静かに動くと、馬から降りた男の後ろに近づいた。

「だれの指示だ?」そう言って、相手の背中に銃を突きつけた。

「待て、待て、銃を下ろせ」相手は両手をあげて答えた。

 思った通り、聞き覚えのある声だった。前回、ともに組んで仕事をした相棒のジニアだった。

「バカめ。裏切ったと思ってんのか」彼はあきれた様子で言った。

「用心するのが生き残る道だからな。違うか、ジーニー?」

「カム、用心しすぎだよ」

「だが、それで命拾いしてきた」

 ジニアはため息をついて苦笑した。

「まあ、ほら、お前の荷物全部もってきてやったぜ」

 指をさした先にキャンバスケースに収められたライフルに、拳銃や予備品を入れてあるカバンが鞍に結わえ付けてあった。

「まあ、事情を話すと長くなる。間に合わなくてすまなかったな。それに報酬なんてびた一文もない、この一件は最悪だ」

「ほんと、最悪だ」カムは銃をホルスターに仕舞った。「すまない。ありがとな、わざわざ荷物を届けてくれて」

 カムは自分の誤解だったことを認めた。

「いいってことよ。それに、お前さんはこれまでの仕事の中で最高の相棒だった。そして、いい友人になれた気がする」

「そういう考え方もできるか…」

 カムは荷物の中身を検めると、大きくうなずいた。「確かに、俺のだな」

「良かった。じゃあ、俺は行くよ」

「先を急ぐのかい?」

「ああ、別件、野暮用があってね」

「気を付けてな」

「そっちこそ。そうだ、次に会う機会があったら飲み屋で一杯やろう」

「分かった。覚えておこう」

「おっと、それとそちらのお嬢さん」馬に乗ったジニアはライラックの方を向いた。

「わ、私になにか?」

「一つアドバイスを。こいつ、カモミールを雇うのはちと高くつきますよ。なんにしてもね。ただ射撃の腕は確かだ。それと、敵に回すのもよした方がいい」

 彼はそこまで言うと馬を走らせて行ってしまった

「まったく調子のいいやつだ」

 カムは安堵のため息をついた。

 それから二人は、また歩き出した。

「それにしても、どうしてその能力で賊に襲われることに気づけなかったのかい?」カムはなんとなく聞いた。

「ばかね、予知能力じゃないです」

「そうかい、分かったよ」

「あの、」ライラックは少し口ごもる様子で聞いた。「あなたを雇うのは高いの?」

「ああ?あいつの言うことはあまり真に受けるな。相場より少し高いってだけのことよ。その分、丁寧な仕事をしてるつもりだ」

「そう」

「なんだ?もしかして依頼ごとでもあるのか」

「ええ」ライラックは少しためらいがちだった。「あの、人探しを手伝ってほしいのだけど、どうかしら?」

「ほう…」

 カムは少し考えこんだ。

「どんな人物を探してるんだ?もしかして復讐とか?」

「バカね。普通の人探しよ」

「わかった。それで、誰を探してる?」

「私の兄よ」

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