白い扉の魔法

@moka1124

第1話 春

チャイムが鳴る。

人生の分かれ道といってもいいほど、私達にとっては大切な、受験シーズンが終わったのも束の間。

私は人生で最大のピンチに見舞われているのだった。


ここは教室。先程入学式が終わり、今は教室で自己紹介をするという時間なのだ。


ま、まずいまずい……、どうしよう。昨日は今日の髪型を決めるので精一杯だった…。もうあんな失敗は二度としたくない。


私が中一の時、一発目の自己紹介で『私は本が好き』という暗い演説を5分程したら、年頃の学生達には受けなかったようでドン引きをされた。

しかもその上、『本オタ』なんていうあだ名がついたのだ。


もうそんな想い、二度としたくない。

だから私は高校では絶対に『本』のことについては話さないと決めていた。

あれこれ考えているうちにとうとう自分の番になってしまった。


「次、夏川さん。」

私はあわてて立ち、なるべく笑顔で言う。

「み、緑川中学から来ました。な、夏川杏です。特技はお菓子を作ることです。一年間よろしくお願いします。」


無事に席について、安堵のため息を吐く。でも、すごく普通の挨拶になってしまった。

私の隣の席の子なんか、変顔とかしていたし・・・。

でもまあ、本には触れないで自己紹介できたので良しとしておこう。


またチャイムが鳴り、休み時間になった。


え…と、どうしよう?私から話しかけてみる?いやでも「なにこいつ」とか思われたらなあ・・・。でもあの子、なんか仲良くなれそう…。

杏はキョロキョロしながら、一人の女の子に目が留まった。

可愛すぎず地味すぎず、を目指しているのが分かった。

でも本当はとても美少女なのだろう。

目は大きくてくりくりしているし、ぱきっとまとめたふわりとした髪もツヤを放っていて女の子らしい。

だが周りは、そんなことに気づいてもないようで話し込んでいる。


じっと私が見ていると、女の子は私の視線に気づいたようで、私の方を向いておもむろに立ち上がり、私の方へ歩いてきた。

「杏さん? だっけ? 一年間よろしくね。」

くすっと笑って、天使のように笑顔でこう言った。その笑顔に私は「ずきゅんっ。」と撃ち抜かれてしまった。

あと、私の名前を覚えてくれていたのも驚きである。

あんな地味な自己紹介で覚えてくれた人いたんだなあ・・・。


「あ、うん! 杏だよ、よろしくね! えっと・・・春乃ちゃん?」

私が名札を見ていうと、また天使のような笑顔で言った。

「お菓子作りが得意なんでしょ?」

まさかそこまで覚えてもらえたとは、光栄である。


「うん!けっこう得意かな」

「へえ~!今度教えてよ!私、杏ちゃんのお菓子食べてみたいな。」

「え、全然いいよー!」

私達がきゃぴきゃぴ話していると、一人の子が話に入ってきた。


「お菓子? いいな、僕も入れて?」

「いいよ!名前は?」

「あ、僕は秋本沙良。女の子だよ?」

くすっと笑って言った顔はまたしても美少女だった。こんな美少女に囲まれて、私大丈夫かな。


「よろしくね!」

「うん、よろしく!」


こうしてイツメン人3人ができあがったのである。

しかし、杏は仲良くなろうとしている2人に、少しだけ悪い気がしてきて、胸が痛かった。

2人は本当の自分でぶつかってきて仲良くしようとしているのに、私は嘘の自分のままでいいのだろうか?

私も本当の私で友達になりたい。でも、二人どんな反応をするのか、やっぱり怖いのだ。

中学生の時のように、二人は私を気持ち悪がったりしないだろうか。

私は怖くて、やっぱり言えなかった。


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