発表、喉

 待機室で藍は緊張をほぐしていた。


「こんな大きいところで研究発表か……。やっぱり緊張するなあ」


 鏡を見ると顔は青白くなっている。

 いや、私緊張しすぎ。


 もう一度、今日の発表の進行表を確認してスピーチの練習をする。

 なんだか今日は喉の調子が悪かった。声がところどころかすれてしまい、本番が不安になった。

 スピーチの練習が終わったところで眼鏡をかけた女性が部屋に入ってきた。


「北島さん、出番です」


 藍は鏡の前で身なりを確認して深呼吸をした。それから胸にかかったお守りを手で包んだ。

 きっと大丈夫。相変わらず喉がイガイガするのが気掛かりではあるけれど……。


 


 壇上に上がると、会場が見渡せた。

 そこは大きなホールで、端から端まで並んだ席が十数列もあった。

 藍は何百という目に注目されると、自分の心臓の鼓動が聞こえてきた。


 落ち着け、自分。大丈夫、緊張する必要はないぞ。

 前にあるマイクを自分の高さに合わせ、電源を付ける。


「えー、皆さまこんにちは」


 声を出すと、普段通りの声が出て安心する。

 話し出すと緊張は次第にほぐれていき、いつの間にかその研究について熱く語っていた。話している最中で声がかすれることは一度もなかった。

 藍が全てを話しきって、お辞儀をすると発表を見ていた人々からスタンディングオベーションが沸き起こった。




「素晴らしい研究でした。このようなお話しを聞けて光栄です」

「その年齢でこれほどの研究をすることができるなんて、すごいですわ」


 発表会が終わって、藍の元へたくさんの人々がやってきた。皆、彼女の発表を絶賛してくれた。

 彼女は自分のやってきたことが間違っていなかったと改めて実感した。



 *****



 水である僕は演説中、ホールの端に置かれていた加湿器から勢いよく飛び出して、彼女の喉へと吸い込まれた。

 珍しく今回は彼女の役に立てたようだ。とても嬉しく、清々しい気持ちだ。

 

 僕は彼女の心の美しさが周囲の人々に伝わったところを見て、嬉しくなった。

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