夢への第一歩
兄様に言われたとおり、私は自分の考えを書き起こしてみた。
そうすることで頭の仲が少し整理できると思ったのも理由だ。
ここ最近ジャンヌが来たり、やりたいことが増えたりしたから、改めて自分の将来についてのビジョンをはっきりとさせておいた方がいいとも思ったのだ。
そうしないと、あれもやりたい、これもやりたい、なんてなんでもやりたい病が出てきちゃうからね。
絵本作りをして、それを広めること。
前世で作っていたお菓子や料理をこの世界でも作り出すこと。
兄様の代わりに領地を立派に治めることのできる領主代行になること。
誰にも文句を言われない立派なお嬢様になること。
特に最後のは大事だ、これだけはしっかりしておかなければ誰に何を言われるかわからないからね。そのうえでしっかり自分の夢を叶えて趣味を満喫するのだから私は。
特に絵本作りが広まれば、今度は童話作家もしくはファンタジー小説家としてデビューしてみたい。そうすれば老後の資金としても十分稼げそうだしね。
そんなことを思いながら、将来について書いていたのだがやはりこの国の識字率がどれ程のものなのかと気になった。
学校はなくても、どこかで文字を教えてくれる場所はあるのかな?それとも家庭教育だけなのか……。
「ねぇリリア」
「はい」
「リリアの周りに、文字を読めない人はいる?」
「……そう、ですね。私はお嬢様付きですので分かりますが、そうではない方も屋敷にはいらっしゃると思います」
「そうなのね……」
確かに書類仕事に携わっている人達は文字に触れる機会も多いだろうが、そうではない人もこの屋敷では大勢働いている。
そもそもあまり頭を使うことが得意ではないと、温室の管理をしてくれている庭師はよく零しているので、私が休憩がてらに持っていく分厚い本を見ては目を回しそうになっている。だが文字に興味が無いわけではないということを知っているので、きっと覚えたいとは思っているはずだ。
そうでなければわざわざ私に本の内容を聞いたり見たり、単語の書いてあるメモを持ってきて教えて欲しい、なんて言わないだろう。
それに自分で読み書きが出来るようになれば、それを家族に、子供たちへと教える事も出来るのだからデメリットは無いと思う。
では何が障害になるのかと思うと時間とお金だろう。
お金を稼ぐ為に働いているのに、その時間を割いてまで勉強したいとはあまり思わないはずだ。だけどもし自分の働いている仕事の時間内で給金を減らすことなく学べるとなったら、それは嫌な顔をする人はあまりいないのではないだろうか。
それこそリリアなんて、私付きの侍女として働いているのでほとんど自由な時間がない。
……ひょっとして、これはブラック企業と同じでないのか……?朝から晩まで、私に時間を拘束されてるなんて、嫌ではないのだろうか……?
そんな疑問が湧いて出てしまい、リリアのことが心配になる。
「リリア、休みたい時はいつでも言ってね」
「お嬢様?」
「長期休暇は難しいかもしれないけど、ジャンヌも最近は頑張ってくれているから、いつでも休んでくれていいから!!」
「お嬢様?!」
休み、大事。すごく、大事。
だから私の事なんて気にせずいつでも休んでくれていいからね!
リリアのことを思って言ったつもりだったのに、何故か必死な顔でお嬢様の傍から離れるつもりは無いですから!と言われてしまい、どうしたのだろうかと心配になる。
「やっぱりリリア疲れてるんじゃ……」
「大丈夫です!大丈夫ですから!!」
休んだ方がいいのでは……と言おうとしたが、それはリリアの言葉に遮られてしまった。
とりあえず元気だから大丈夫だと言われてしまったので、休みたい時には無理せず言ってね、とだけ約束しておいた。
それから再び、今後どうすればいいのかと考えた結果まずは身近なところで試してみてはどうかと思った。
使用人や、その子供たちから始めよう、と。
もちろん嫌がる人には強制はしないし、あくまで学んでみたい、興味のある人だけだ。
就業時間内で、1時間、30分と時間を決めて簡単な単語や文字、計算を学んでいく。もちろんその間、給金が減るようなことはしない。
これは相手の為、と言いながら私の、ベッドフォード家の為なのだから。
使用人の質が上がることは、その屋敷の主人の評価に繋がることであり、優秀な人材を育てることも上に立つ人間には必要なことだと思う。その一環として、私は教育というものを選んだのだから。
そしてもし、もっと難しいことを学びたいと思えば、本の貸出をして今度は自分で知識を得るようにすればいい。きちんと誰かに教えを学びたいと言うのであれば、その時は父様に相談すれば良いだろう。
それをどう思う?とリリアに問えば、お嬢様は優しいですね、と返ってきた。
「そうかな、むしろわがままじゃないかしら?」
私の勝手な考えに周りを巻き込むのだから。
でもリリアはそんなことはないと首を横に振った。
「お嬢様はいつも他人の事ばかりですから」
「……そんなことないわ」
むしろ身勝手で、自分のことしか考えていない。
それなのにリリアは真っ直ぐな目でそれを否定してくる。
「ありますよ、お嬢様はいつも私たちのことを考えてくれています」
「リリア……」
そんなお嬢様だから、私たちはみんな大好きなんですよ、と嬉しいことを言ってくれるリリアに胸が温かくなる。
「……そう」
「はい」
兄様が応援してくれる、リリアもいてくれるし、ジャンヌだって、賛同してくれると思う。
だからこそ、私は頑張れるのだ。
まずは父様に納得してもらえるような計画表を作らねば。
それをすることでどんな利点があるのか、理解してもらわなければ父様だって私に無条件で投資はしてくれない。
父様から認められてようやく動き出すことが出来るのだから、それをどう進めていくのか、何をしていくのか、細かいことを決めなければ理解も納得も得られないだろう。
そのあとも、どんなものを使って教えるのか、どういうやり方がいいのか、考えることは沢山ある。
「リリアはどうやって文字を覚えたの?」
「母に教えて頂きました。母は元々城で文官として働いていたので」
その為小さい頃から文字の読み書きは教えて貰ったのだという。
「ただ計算はあまり得意ではないのですが……」
「そうなの?それならもし、教わる機会があったらリリアも学びたいと思う?」
「そうですね、これから先お嬢様の為にも覚えたいと思います。お嬢様付き筆頭侍女の座は渡したくありませんから」
「いや、私のことは気にしなくていいのよ?」
リリアが学びたいのかどうかなのだけど、と思ったが学びたいという気持ちがあるのはいい事だ。
だからもしほかに学ぶことが出来るのなら、どんなことが学びたい?と問えば彼女は少し考える様子を見せた後に色んな国の言語を知りたいと言った。
「外国語ね・・・・・・」
「はい、そうすれば私がお嬢様の代わりに隣国の書物やレシピを翻訳することも出来ますから」
「!!それは凄いわね!」
確かに外国語が分かれば今よりも沢山の書物を読むことが出来るし、探しているものも見つかるかもしれない。
……私も、教えてもらおうかな。
誰か異国の言葉に詳しい家庭教師を探してもらおうか、もしくは辞書とかあるのだろうか、とリリアの意見を参考にしながら、私は手を動かした。
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