ジャンヌと私
ジャンヌにこれからのことを処遇について詳しく説明すれば、彼女はそれに特に疑問もない様子ですぐに頷いた。
「はい、わかりました」
その早さに私の方が驚いてしまい、本当にいいの?と何度も聞いたくらいだ。
確かに私の侍女にならないかとは言ったが、希望があるならば出来るだけ叶えるつもりだったし、要望を聞く予定だったのでもう少し考えて欲しいと思う。だけど、それをジャンヌ自身が否定した。
「あなたに助けられた時から、私の全てはあなたのものですから」
傍にいさせてくれるならそれでいいとまで言い切る彼女の瞳は、ハッキリとした意思が宿っており彼女の決意の強さを感じた。
「あなたと共にいさせてください、お願いします」
頭を下げてまで言うジャンヌに顔を上げさせて、私はこれからよろしくの意味を込めて彼女の手を強く握った。
そうしてジャンヌは私の侍女として、この屋敷に住むようになった。
ジャンヌが私の屋敷に来てから数ヶ月が経った。
屋敷に来た初めの頃は、ガリガリに痩せて風が吹いたら倒れそうな程細かったジャンヌだったが、しっかりと食事をして休養したおかげか、数日が経てば顔色もしっかりと良くなって安心したものだ。
それに私が思っていた通り、ジャンヌはとても綺麗な顔立ちをしている子で先輩侍女であるリリアに身嗜みを整えてもらえば、私なんかよりもよほどお嬢様らしいと思った。
「そんな事ないです!!お嬢様の方がとても可愛らしいです!!」
「ふふっ、ありがとう。でもジャンヌが綺麗なのは本当だもの」
きっとドレスや上品なワンピースも私よりもよほど綺麗に着こなすだろう。
そう言えば、ジャンヌは首がとれそうなほど首を横に振って否定したけど、顔立ちばかりは生まれ待ったものだからどうしようもないし、諦めているので特に気にはしていないが、それでもいいなぁと思うのは仕方の無いことだろう。
やっぱり、色彩が地味なのがなぁ・・・・・・。
自分のチョコレート色の髪を摘みながら、すっかり輝きを取り戻した金色の髪を眺めた。
うん、やはり金髪はいいなぁ・・・・・・。
お人形さんのような髪は羨ましくて憧れるが、ないものねだりをしても仕方が無い。
「お嬢様・・・・・・」
そんな私にジャンヌの心配そうな声がかかるが、気にしないでというように笑いかけた。
だって、もう随分前からそんなことはわかっていたのだから。それに私は今の自分がそんなに嫌いではない。
そう思えるようになったひとつには、ジャンヌと出会えたこともある。
今になって思えば、私をジャンヌの元まで導いてくれたのは精霊だったのだろう。
・・・・・・サクヤは、私の事を約束通り見守ってくれているのね。
きっとジャンヌと出会わせてくれたのも、彼のおかげなのだろうと何となく感じているので、私は彼女のことを信じている。
それにジャンヌはとても優秀で、まだ数ヶ月しか経っていないのにとても沢山の仕事を覚えて頑張ってくれていた。
彼女を屋敷に置くと決めた時に父様と母様が何を言い、どんな話をしたのかは分からないが、私の為に、と一生懸命仕事を覚えて必死で頑張る姿に私も頑張ろうと思えた。
なので最近では新しく作ろうと決めた絵本に力を入れて制作している。
食べ物の話で、みんなの関心を集めるような、知っている人物が出てくるものはどうだろうかと思い、オリジナルのキャラクターを作るのではなく、この国で一度は聞いたことがあるだろう精霊王を主役に使うことにした。
数日前にふらりと現れたサクヤに念の為に許可を求めれば、好きに使えばいいとあっさりと了承してくれた。
「代わりに出来たら我にも見せるのだぞ!」
「えぇ、もちろん。約束するわ」
本物そっくりには描けないけれど、出来るだけ格好良く描くことを約束すれば、サクヤは上機嫌に帰っていった。
用意しておいたお菓子を食べて。
前に街で見つけたりんごみたいな果実は、やはり味も同じでそれで作ったカスタードクリーム入りのアップルパイはサクヤの舌に合ったらしい。
「どらやきはまだか?」
「小豆がまだ見つからないから、もう少し待って」
もしかしてかなりの甘党なのかもしれない、と思いながら私は今度は何を用意しておこうかと考えながら手を動かした。
大きめの画用紙に描くのは精霊王とカステラの物語だ。
精霊王が夜空の月を見つめながら、月が欲しい、と言うところから物語ははじまる。
それを聞いた精霊王に仕える猫たちはどうにか月か手に入らないかと考えるが、遠くにある月には手が届かない。そこで猫は知り合いの人間に相談すれば、月を作ろうと言いフライパンで真ん丸で大きなカステラを作るのだ。それを月が落ちてきたと言って精霊王に贈り、みんなでカステラを食べる、という話だ。
本格的なカステラのレシピは覚えていないが、簡単にフライパンで出来るカステラは昔よく作っていたので、これなら書けるし説明も出来る。
おまけにこれを読んだ誰かが作りたいと思ってくれたら、それが家庭のおやつとして広まってくれることだろう。
そうなればもっと本格的なカステラを誰か作って、レシピを広めてくれるかもしれないし!
ふわふわで甘い黄色のカステラを想像しながら描けば、我ながらよく描けているのではないかと自画自賛したくなる。
あとは文字を簡単にまとめて書いて・・・・・・と思っていればお茶の用意をしてくれていたジャンヌがそわそわとした様子でこちらを気にしているのに気が付いた。
「ジャンヌ」
「!はい」
「よかったら、読んでみない?」
まだ全ては描けていないが、よかったら読んで感想を教えて欲しい。やはりいろんな人の意見を聞きたいからね。
そう思い手招きをしたのだが、ジャンヌの表情が曇った。
てっきり絵本に興味があるものだと思い喜ぶ姿を想像していたので、その反応は予想外だ。
「ジャンヌ?」
別に難しいことをお願いしたつもりは無かったし、面白くないならそれで素直な感想を言ってくれたらいい。絵が下手ならそうハッキリ指摘してくれたら、と思ったのだが彼女が言ったのは私が想像していなかった事だった。
「いえ、あの、そうじゃないです。お嬢様の絵はとても綺麗だと思います。ただ・・・・・・」
「ただ?」
ただなんだ?完成してから読みたい?それとも・・・
「・・・・・・私は、字が読めません」
「え?」
「だから、お嬢様の描いたものを読みたくても読めないんです」
申し訳ありません、と告げる彼女に私は固まってしまった。
文字が読めない・・・・・・?
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