第4話 のどか
「どうしよっか、これからあのテーマパークに行く予定だけど」
僕はあの駅の混雑を思い出した。
「あの混んでたやつ? あんまり気は乗らないなー」
「まあ、あそこって
「……やめとかない?」
花田さんが上目遣いでねだる子供のように言った。
「……やめときますか。食後の散歩にプラン変更?」
僕はリュックサックにアップルパイの入った箱をきれいに入れるのに苦労しながら返した。
「そうだね。それで見つかった場所にしよ」
僕らは駅から出た。
それからおよそ三十分間、河川敷をしゃべりながら歩いた。初めの方はさっきのカフェのことを教えてあげたり、今日来なかった二人の話をしていたが、ソロ祖r話題のつきそうなころ、遠くに観覧車が見えた。
「別に嫌じゃないんだけど、やっぱり人混みがね」
彼女は思い出したようにつぶやいた。
「さすがにあの数だったら僕も嫌だな」
「こういうのどかなのっていいよね」
「うん。私はやっぱりこの雰囲気が好きだな。川の流れる音、鳥のさえずり。車の音も、子どものはしゃぐ声も遠くから聞こえていたらましだから。まるでここだけが現実から切り離されたみたいに」
「花田さん……」
「もう戻ろっか。あとは駅の近くで買い物しよ……って、倉田くんは買い物とか興味ないよね」
「ううん、僕も行くよ」
「えっ」
「さ、行こ!」
僕は彼女の手を取って駅へと歩を進めた。彼女は僕の推進力に身をゆだねたようで、何も抵抗することなくついてきた。先ほどまで上着を膨らませていた向かい風が今度は追い風となって上着を背中に張り付けている。
少しだけ、誇らしくなった。
あの後花田さんの買い物に付き合った。僕も一着だけ服を買った。そのあとは勉強目的じゃないカフェに行った。要するに、『花田屋』だ。そこでスマホの使い方を色々教えてもらった。晩御飯はそこで食べさせてもらい、ついでに親同士のコミュニケーションも済んだ。親しい仲だし、親も知り合っておいた方がいい。
「って、どこの老夫婦みたいなデートしてきたんだよ!」
翌日の朝、学校に着くや否や海音が駆け寄ってきた。昨日撮った写真を四人のグループチャットというところに投げてみたのを見たのだろう。うまく上がってたようでよかった。「デートじゃないって、楽しかったからいいんじゃない?」
「え、まあ……実際老夫婦っぽかったし」
「今度は四人で行けるといいね」
「……そうだな。俺も頑張らなくちゃ」
「頑張るって何を?」
海音は笑いながら、わかってねぇな、と僕の肩をたたいた。
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