喫茶「花田屋」でゆっくりと(短編)
時津彼方
喫茶『花田屋』でゆっくりと
第1話 白いガーベラ
「で、どうしてこうなったの?」
「僕が聞きたいよ。
「私も
私の目の前には今、スマホを見ながらあたふたする倉田くんがいる。最近買ってもらったばかりらしく、使いこなせていないようだ。
「それ、このアプリからメッセージ送れるんだよ」
私は彼のスマホの画面の右上の隅にある緑のアプリのアイコンをタップした。彼の親しい友達である喜多海音くんから送られてきたメッセージに返しあぐねていたようだ。
「あ、そうなんだ。ありがとう。海音に色々アプリを入れられてわかんなくなっちゃって」
「で、何て送られてきたの?」
「えーと、『これが開けたってことは、とりあえずこのアプリの使い方が分かったってことだな。とりあえず安心した。で、今日は用事で行けなくなった(笑)すまん。帰るか帰らないかは任せる。急でごめんな(笑)』だって。さすがにこれは僕もキレるよ」
倉田くんはため息をついて、ホーム画面に戻した。
「矢島さんの方は? こっちと同じ感じっぽい?」
「う、うん。まあね……」
私の方はというと、前日に空ちゃんに話を聞いていた。
―――倉田くんを誘うよう海音くんに言っておいたから、明日は楽しんできて。行かなきゃ倉田くんは一人で遠方まで来て、寂しく帰る羽目になるよ。
空ちゃんってあんなに積極的だったっけ。きっと彼女に何か変化を与えてくれる人ができたのだろう。それがもしかして喜多くんだったりして。そういえば最近あの二人が仲いいって噂になってた気がする。まさか……。
「花田さん。どうしたの? そんな黙りこくっちゃって」
「えっ、ううん。何でもない。ちょっとぼーっとしてただけ」
「どうしよっか、これから。とりあえず今日行こうとしてた場所に行ってみる?」
「そ、そうだね」
私は彼に連れられてある公園に向かった。
「うわあ、やっぱり変わってないなー」
ここは倉田くんが小さいころ、よくお母さんに連れてきてもらった公園らしい。きゃっきゃと騒いで懐かしむ様子が微笑ましくも感じる。赤と黒のギンガムチェックの上着が風にそよぐ。私より背の高いその背中が、今は少し小さく見える。私はそれについて行く。彼は一角に居座っている花壇の前でしゃがんだ。白色の花が互いに譲りあうように並んでいた。
「この花、ガーベラ?」
「うん、ここにはいつも、ガーベラが植わってるんだ。小さいころはよくここの花植えのイベントに参加してたっけ」
「あんまり白のガーベラって見たことないかも」
「そう? ならよかった」
彼は純粋な笑みを浮かべた。その顔は白いガーベラのようだった。
「よし、これぐらいでいいかな」
「え、もういいの?」
「うん、僕は今日これさえ見れたらよかったから」
「そっか……」
じゃあ彼はもう帰っちゃうんだ。
「次のところ行こうか」
「え?」
「花田さんの行きたかったカフェ。僕も楽しみだな」
彼は踵を返して公園の出口へ向かっていった。
「君は律儀だな」
私は彼の後を追った。
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