第57話 細かいことはフラウに聞いてくれ
王城から出る前に内務大臣の部下のところへ向かう。そしてその方が屋敷まで案内してくれることになった。その屋敷は貴族街のはずれにあるらしい。一般街寄りだ。さすがに騎士爵だしね。王城寄りにはならないだろう。
そんなことを考えながら、内務職員の誘導に従う。内務大臣の部下なら内務職員だろう。呼び方はそれでいいや。
そして貴族街のはずれにある大きな敷地の前で止まった。まさかこれじゃないですよね? あっちの小さなお屋敷ですよね? 何、違う? これ? ホントに?
それは不正を働いて奪爵された元子爵家の屋敷らしい。不正で得たお金を使って、周囲の土地を買い、屋敷と敷地を大きくしたそうだ。貴族街のはずれにあり、更に縁起も悪くて他の貴族は欲しがらなかったらしい。
「それでも買うとかなりお高いです。良い物件ではあるのですが、高いお金を払ってこの場所に居を移す人はまずいないと……そういうことです」
内務職員がぶっちゃけた説明をする。これにはフラウも苦笑い。 俺? 俺はどんな表情してるのだろうか? 貰うことは決まってるので諦め顔かな?
「受領書にサインをお願いします。今日からでも住んで頂いて構いません。それと私が戻って報告すると、すぐにでも専属の使用人が派遣されて来ると思います。その人たちが来られるまでは、屋敷の方に居て頂けますか?」
中を見てみたいしその間に来るだろう。そう思って了承する。使用人は既に中を掃除しているため、中の案内もできるとのことだ。なので、職員の方にはすぐに戻ってもらうことにした。
「それでは失礼します」
そう言って馬に跨り颯爽と去っていった。それを見送る俺は少し取り残された気分を味わうのであった。
「中を見てみましょう?」
フラウが提案してくる。その言葉を受けてようやく我に返った。正直な話こんな大きな屋敷を貰ってもな……やっかみとか嫉妬とかが心配である。
しかし立地は比較的良かった。俺は王城に行きたくないので、遠くても全然問題が無い。それにここからだと、商会の店舗までそれほど離れていない。店舗と王城の中間地点くらいだ。そして庭が広いなら戦闘訓練できるしなっ。なんとか前向きに考えていこう。
そしてフラウに連れられて屋敷に入っていく。屋敷の中はさっきも言われていたが、最近掃除された痕跡があった。更に家具なども揃っていた。これなら今すぐにでも移り住むことができるな。これは正直ありがたい。
中を見て歩く。フラウはなかなかご機嫌な様子だ。俺は厨房などをチェックする。さすがに食材は無かった。気になったんだよっ! そんな眼で見ないでくれっ! 他にも怪しい地下へ通じる通路があり、その先の地下室を覗いて……そっと閉じ。なんか拷問部屋だった。ここはすぐに片付けさせよう。
この屋敷3階まである……。しかも水周りが魔道具が使われている。これは取り外せないしな。ランニングコストも掛かりそうだが、魔石は大量に持っているのが救いだな。そしてお風呂もあるっ。オーガスト領では普通にあったが、アイストル領やこっちに来てからは、入る機会がなかった。素直に嬉しい。俺は子供の頃から入っていたしな。しかしあまり一般的では無いらしい。一部の人には贅沢の極みとか言われたりもしたしな……。
更にこの屋敷。本宅の他にも別宅が2棟に、使用人の宿舎と私兵用の兵舎まで備えていた。ここに住んでいた者は敵が多かったのだろうか……。俺は違うからな。
それと注目するのはやはり庭だろう。本宅の北側に非常に広い庭がある。壁に沿って木が植えられており、周囲から見えないようにしてある。一部分は砂状になっているところから、そこで訓練などが行われていたのだろう。
「なかなか良いところですね」
「うむ、お風呂があるところが良い」
「個人的には庭が広いところが良いですね。アビスさんなんかも喜びそうです」
「俺も最近身体が鈍って来ているしな。身体が動かせる庭は良いな」
それに兵舎も思ったより奴隷が増えたため、しばらくはそこで生活してもらっても良いな。そんな話を前庭で行っていると、門に複数の馬車が来た。
そこから使用人たちが降りてきて、俺の前に並ぶ……俺の目は今死んでいるかもしれない。うん、30人は居るな。疲れているのかな……。
「遅くなりました、旦那様。これよりライリール様にお仕えする者たちです。どうぞよろしくお願いします」
これぞ執事って感じの人が代表して挨拶をする。フラウ、助けて。
「ああ、よしなに頼む……?」
何故か疑問系になり締まらない俺であった。
「それでは早速お仕事に掛かります。よろしいですか?」
「分かった。細かいことは俺の助手を務めているフラウに聞いてくれっ!」
フラウがなんてことをっ! って顔をしているが言った者勝ちである。残念だったなっ! 執事の方もその旨了解らしい。フラウが奴隷でも関係ないようだ。
その後は俺は一言断って、先日買った奴隷たちを連れて来ることにした。あー後エルフの奴隷も受け取りに行かねば。それは明日でいいか。
ちなみに即戦力の10人の内2人は商会で仕事をすることになっていた。26人の方も4人ほど商会の仕事を手伝いと行ってきたので残してきた。ついでにアビスとアルテナも連れ来る。
そして連れ来た30人。この人たちは取りあえず兵舎の方に住まわせよう。勿論、何の仕事するか決まったらそこへ移すことにする。使用人が更に30人強いる分けで……良し、考えるのはやめよう!
それと商会の人に頼んで、錬金術を作っていた部屋の物をこちらに移動させる。この屋敷にも拷問部屋とは違う地下室に錬金部屋があった。前の主人はここで一体何を作らせていたのだろうか? この錬金部屋は隠し部屋みたいになっていた痕跡があったのだ。
(麻薬とか違法薬物の類かな……とんでもないことをしてたみたいだな)
(ライルもやっちゃいますかっ!? 違法薬物で巨額の富ですっ!)
(バレて破滅する落ちだし、そもそも興味無いわ)
そしてこの曰くありげな錬金部屋に、俺の荷物が運び込まれるのであった。そろそろ王女の病気とも決着を着けたいところだ。それで俺は王城から解放されるのだっ!
ちなみにアビスは屋敷に着いたら、本庭……一番大きい庭をそう呼ぶことにした、へ行き早速槍を振り回していた。アルテナは意外なことに奴隷たちの面倒をみていた。特に病人の看病をしている子たちの相談に乗っていた。看病はしてやらないところが実にアルテナらしい。
さて俺は自分のやるべきことすることにする。この悪魔病と言うが……魔力が悪くなる病気とかそう言う落ちでは無いかと俺は考えている。よく仮名とかの時はテキトーに名付けるんだよねー。他にも悪い魔力になる病気とかありそうだよなー。
そう考えるのは、王女の魔力が僅かに淀んでいたからだ。普通の人だったらこれくらい影響が無いのでは? と思う程度である。ダンジョンの近くに住んでいたりすると、日常的に障気に当たったりするしな。これくらい普通である。
そして実は<治癒魔法>を試してみたが……効かなかった。きっと障気だけでは無いのかもしれない。障気であるならばもう少し影響が出ているか……。他は……。
(アルテナ様、女神様。血に関する病気で似たようなのはありますか?)
(おおおお、そう呼ばれると少し感動しますっ。そうですね~。血に関する病気では無いと思いますよ? 良いとこ突いてるとは思いますけど)
違うか~。それにしてもアルテナはチョロイな。そして良いところは突いている。
(ヒントとしましては、ある意味血も影響していますよ)
ある意味。直接的では無い。淀み。魔力……。
(そう言えば王家の血筋って一度滅びかけてたよな……そして今も公爵家との婚姻が基本。そして正室の方も体調不良と……。その時の資料を見に行くかっ)
(ふふふふふ、ようやく気付きましたかっ! いや、正直普通は分からないと思いますけどね~)
(俺もアルテナ様、女神様がいなかったら気付かなかったもしれん。今回だけは感謝しよう)
(美味しい食べ物で良いですよ~)
まあ役に立ったのだから報酬は与えないとな。何か考えておくか。
さて王城の治癒院と書庫へ行くことにする。自分から行くの初めてだっ! 嫌だああああ、行きたくないいいいい。と心の中で泣きながら俺は王城へ向かった。
ライル「これが終わったら俺、屋敷から外に出ないんだっ!」
アルテナ「それだと冒険できないのでは~?」
ライル「しまったああああああ」
アルテナ「そんなあなたに良い言葉を教えてあげましょ~。登城拒否です!」
ライル「な、なんて良い言葉の響きだっ!」
アルテナ「ただし、使うと罰せられることがあります~」
ライル「ダメじゃねーか……」
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