褒美として与えられた自由⑥
「あら? 貴女は?」
「ライ麦を保管する場所に連れて行けと言ってだな? アタシが案内する」
「で、でも村長は大丈夫なの?」
娘なのに、置いて来てしまって問題無いのかと疑問になる。
「中は血なまぐさい事にはなってないべ。ただ権利義務についてと財産没収について話し合ってただ」
「そ、そうなのね……。じゃあ案内をお願いしようかしら」
ハイネが殺人を犯してない事を知り、心底ホッとする。戦争を行っている人なのだから、人を殺したりはしているのだろうが、出来る事なら、彼の国の国民を自分の手で殺してほしくないと思ってしまっていたのだ。
村長の家からさらに奥に向かって歩く女性の後を、オイゲンと2人追いかける。
「でも、どうして私に協力しようと思ったのか聞いてもよろしいかしら?」
「アンタは何か確信を持って父さんに話をしている感じだったな。だがら……」
村長には拒否されたが、この女性はしっかりジルの話を聞き、理解しようと努めていてくれたらしい。
「私を信じてくれる事にしてくれたのですのね。感謝いたしますわ」
「この村に嫌気がさしてきただけだ! 解決してくれるんだば、いけすかない貴族女だって、何だっていいんだ!」
バザルの村にもこうして、改善しようと考えている人がいる。そう思うと、ジルは明るい気分になってきた。
「私、力を尽くしますわ! ねぇ、貴女のお名前を教えてくださるかしら?」
「アタシはラーレ。アンタの名前は?」
「私はジルと申します。こちらの大きな身体の男性はオイゲンさんですわ」
「オイゲンです。協力有難うございます」
「ジルとオイゲンね。宜しく」
ジルは先を行くラーレの肉付きのいい背中を見ながら、マルゴットの話を思い出していた。
(村長の娘さんという事は、今魔女として捕まっている女性とトラブルを起こした方の、姉さんか妹さんという事になるのよね?)
「ラーレさん」
気になる事は聞かないと気が済まない性分なため、ジルはラーレに声をかける。
「『さん』はいらねーべ」
「ではラーレ。1つ質問してもいいかしら? 貴女には兄弟がいらっしゃるの?」
「居る。馬鹿な兄がな。今日もベッドから起きねーでグダグダしてるだ」
「まぁ……」
「恋人がいたアタシの友達に強引に迫ったがら、バチが当たったんでねーが? あんな恥さらし、地獄から帰って来なかったらよかっただよ」
「……」
「ハハハ……兄妹仲はあまり良くないんですね」
「血の繋がりがあると思われるのも嫌だね!」
社交的なオイゲンに会話を任せ、ジルは考える。
魔女と決めつけられた女性がいつまでも殺されずにいるのは、おそらくラーレが止めているからなのだろう。それと、ラーレの兄の素行の悪さから村人達の同情を集めているのかもしれない。
(不幸中の幸い、なのかもしれないわね。早く助けてあげないと……)
「あの小屋だ」
ラーレが指さすのは、川端に立つ小さな小屋で、水車が備え付けられている。
ギシギシなる戸をオイゲンが開けると、麦の匂いが漂っていて、かなり粉っぽく空気が悪い。ジルは咳き込んでしまった。
「これだから貴族は駄目なんだ」
ラーレはジルの様子に呆れ、肩を竦めるから、ジルは情けなくなってしまう。
「ジル様は皇太子殿下が大切にされている姫君なんですよ。この様な場所には慣れてませんので、どうかご容赦ください」
オイゲンは、ジルをフォローしてくれようとしたのだろうが、ラーレはその言葉に、嫌そうに顔を顰めた。
(オイゲンさん、そのフォローの言葉はいらなかったかもしれないわ!)
「嫌な奴等だ。さっさと用事を済ますか。ここに積まれてるのがライ麦だ」
ラーレは投げやりな仕草で、小屋を指さす。
小屋に積まれている麻袋の中身全部がライ麦だという事なのだろう。でも積まれている袋は思ったより少ない。
「ずいぶん少ないですのね?」
「これは去年の収穫分、今年の分はもうじき収穫されるだよ」
そういう事かと、ジルは深く頷く。そしてある事を思いついた。
「なるほど。ラーレ、悪いのだけど、もう二つお願いしたい事があるの。よろしいかしら?」
「それは願い事の種類による」
「それもそうね。ここにあるライ麦を私に売って下さらない? それと、製粉方法を教えてほしいわ」
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