呪物

@ozaozaibuibu

呪物

 ツイッターで流れてきた、スマホを川の中に投げ入れるというドッキリの動画を、昨日の昼間友達に見せられたのものが脳内再生され、恐怖で目が覚めた。

 こんなことされたら死んじまうと思いながら、いつも寝る前にスマホを置いている場所を見ると、ない。スマホがない。俺は慌てて布団から飛び起き、周りを見回したが、ない。まさか正夢になってしまったかと思ったが、よくよく考えたら昨日の夜ユーチューブを見ながら寝落ちしてしまった、ということに気付き自分の手を見た。するとやはり手のなかにあり、かなりほっとした。まさに灯台もと暗しだった。

 なぜ気が付かなかったのだろう、と考えながら、スマホの時計を見たら八時を過ぎていた。やばい。光の速さで準備をし、高校に向かった。

 だが、今日が日曜日だということをマンションのエレベーターの中で、スマホのロック画面を再び見た時に気づいた。

「まじかいな・・・・・・」と一人で呟き、自分の住んでいる三〇五号室に戻り、布団に突っ伏した。それからいつもの休日が始まり、いつも通りダラダラ過ごし、いつも通りに寝た。

 

 そして次の日、いつもよりアラームの音がうるさく感じられ、早く目が覚めてしまった。なので、さっさと朝ごはんの六枚切りのパンを一枚と、サラダを食べ、学校に行くことにした。

 パンにマーガリンを塗るために、スマホをテーブルに置こうとしたが、置けない。いや、取れない。スマホが手にくっついていた。

 「え、なになになになんでとれへんの。誰かのイタズラで両面テープでくっつけられてんのかいな。」と、思わず口に出してしまった。けれども右手で軽く、引っ張ったら普通に取れたのでほっとしたが、なにか違和感を感じた。

 朝ごはんを済ませ歯を磨き終わったので、歯ブラシを元の場所に戻そうとしたが今度は歯ブラシまで取れない。流石にゾッとした。引っ張ったらとれた。すると、両面テープがくっついていた。

 「なんやねんこれ。」と問うたが、そもそも今家には母さんと父さんは朝早くから仕事に出かけてるから弟しかいない。目の前をわざとらしく弟が中指を立て、舌を出しながら怒った顔で通り過ぎてったので、これは確実にプリンのせいだと察した。昨日弟のプリンを食べてしまった。(別にわざと食べた訳では無い。置いてあったからただ食べただけである)

 両面テープを綺麗に剥し、歯ブラシを戻しながら、

「こうゆうことはしないほうがええで。嫌われるやつやからな。」

なんてかけた言葉は無視され、弟は早々に家を出て学校に向かってしまった。

 俺は毎日高校に向かう途中電車の中でイヤホンをつけ、音楽を聴きながらゲームをやるという俺流ルーティーンをしていた。しかし、今日はなぜだかする気が出なかった。

 何故だろうと考えながらぼーっとツイッターを眺めていた。(ちなみに俺はフォロワー4000人の、俗に言うツイ廃というやつだ)

 流れてくるツイートを見ていたら、変な動画を見つけた。それは心霊動画でも、ドッキリ動画でもなく、かといってCGにも見えなかった。その中身をざっくり言うと、スマホがそのスマホを持っている人を取り込んでしまうというものだった。

 気持ち悪くなったので見るのを辞めたが、自分には関係ないのになぜだか引っかかるものがあった。

 俺の通っている高校は駅から徒歩十分ほどの所にあり、バスに乗っていくほどではない。だから、当たり前のように歩きスマホをしていたら、いつもより早く校門の前の坂まで来てしまった気がした。しかも今日に限って、生徒指導の怒ると怖いと聞いたことがある(もちろんその噂もSNSからの情報である)先生が校門の前に立っているではないか。 俺の通っている高校はスマホの使用が原則禁止である。だから、使っている所を見つかったらその場で即没収となり、反省文を書かされてしまう。没収は免れたい。

 いや、よく考えたら、ここはまだ校門を過ぎてないから大丈夫なはずじゃないか。堂々とスマホをいじりながら先生の前を過ぎ去ったら先生は見向きをしなかった。心の中で俺の勝ちや、とか思ってしまったが、考えが浅はかだったことにあとから気づいた。

 教室に入り、スマホから目を離し周りを見回すと、案の定まだ誰も来ていなかった。これはある事をやっていいよ、と言わんばかりの状況だった。自分の席の横にカバンを掛けとりあえず、この滅多に見られない風景を写真におさめた。そして、「世は満足じゃ」とかなんとかコメントを付け、さっきの写真と共にツイートした。

 上着をカッコつけのように脱ぎ捨て、髪を風のようになびかせた(つもりだ)。右手でカバンの中から遊戯王の山札からドローする時のようにヘッドホンを取り出した。(多分上手くいった)そして、仮面ライダーの変身シーンの最後の頭の部分装着時のように、ヘッドホンを装着した。「きまった。」と一人でドヤり、最後の工程に入ったつもりだった。いや、いけたと思っていた。厨二病がはいりすぎて今の周りの状況を忘れ過ぎていた。

 「なんということでしょう。声がした方を振り向くと、ドアが空いていたのです。そしてぇ、先生がそこに立っていましたぁ。しかもぉ、生徒指導の先生でございました。おつかれさまでしたぁ。」BGMと共に流れ出した脳内では、焦りと思考が怒った蜂のように飛び交っていた。

 「おいお前、今日は開校記念日で休みだぞ。生徒会とかじゃないならさっさと帰れい。」

とドアを勢いよく閉めて行ってしまった。

 終わったと思ったが、意外とついていた。いや、無駄な登校をしてしまったから運は良くなかったのかもしれない。いや、やはりついていた。そしてまたあの違和感が感じられ、それと共に誰かに見られているような気がした。

 家に帰る前に、お金が余っていたのでコンビニで課金用プリペイドカードと、タピオカドリンクを、スマホ決済で買った。

 家に着いたがまだ誰もいない。この二日間無駄な行動と、不快なことがありすぎて精神的に疲れていたのであまり夜寝れていなかった。ベッドに横になった。そして寝ようとした。スマホを置きたかった。ところまでは覚えているのだが、気づいたら朝になっていた。寝てしまっていたようだった。まるでピオリムを長時間かけられてしまったようだった。

 次の日からはまた、いつも通りのぼっち生活がはじまった。ツイッターでは有名人気取りの俺だが、クラスでは友達、いや話しかけてくれる人すらいない。最早誰からも認識されていないのでは、というぐらいぼっちを極めている。スマホを授業中もずっといじっていたら一日が早かった。

 

 変化があったのは金曜日だった。

 朝起きたらいつも通り寝落ちしたままでスマホが手の中にあり、そこは別に変わりなかった。しかし、いつもとはなにかが違っていた。

 いつものように一人で学校に行き、一人で学校生活をしていた。スマホをいじっていたら今日が十三日の金曜日だということに気づいた。これは不幸なことが起こるに違いないとおもた。が、俺には無縁だなと調子に乗っていた。

 すると早速、天罰が下された。

 「おいこら、そこのやつなんで下を向いている授業中だぞ」

 最初は誰に言っているのか分からなくて無視をしていた。いや、スマホゲームに集中しすぎて聞こえていなかった、という方が正しいだろう。

 「お前だ、佐藤門左衛門」

 俺のことだった。多分学校で先生に名前呼ばれたのは二回目とかだった。よく覚えていたなあと関心している間に、先生が目の前に迫っていた。

 慌てて、スマホを机の中に入れようとしたら、机の脚に腕をぶつけた。その拍子に手からスマホが滑り落ちてしまった、と言うのが普通である。俺もそれ通りの想像をし、画面がバキバキになってしまったかと焦った。 

 しかし、なんとスマホは手の中で微動だにしていなかった。そしてさらに先生はスマホの存在に気づかず、「授業に集中しろ」とだけ言い、行ってしまった。

 これはおかしいと思い、スマホではなく手をよく見た。やばい。スマホの中に手がめり込んでいた。しかも、みるみるうちに侵食が進んでいた。あと十分もしないうちに手がスマホに取り込まれそうだった。何故今まで気づかなかったんだろう。ずっとスマホを見ていたのに。「スマホシカミテイナカッタカラダヨ」幻聴がきこえる。「ゲンチョウジャナイサ」耳までおかしくなった。「ボクはコノスマホサ」引き剥がそうとしたが、逆に右手も持っていかれてしまった。「キミがスマホガダイスキダカラツレテイッテアゲル」嫌だ。嫌だ。「オイデ」やめろ、やめてくれ!

 

 彼の座っていた席には、「すまほ」だけがのこっていた。

 カレノユクエハダレモシラナイ

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