「植えてみる」って、今からですか?

綿苗のたり

第1話「スナップエンドウがおいしい」

 春ごろの話になる。

 スナップエンドウをお隣さんからいただいた。

 家庭菜園に植えていたのが多く採れたのでおすそ分け…というやつだ。


『エンドウ豆ねぇ、あまり好きじゃないんだよな…』


 そう思いながら受け取る。

 もちろん苦手だなんておくびにも出さないし、丁寧にお礼もした。

 数缶のノンアルコールビールを手にしたお隣さんの笑顔がまぶしかった。

 お礼大切、交換大切、多めのお返しいちばん大切。

 田舎暮らしの鉄則は、訪問者に「訪れてみて良かった」と思ってもらうことだ。

 お返し用の物資は、常に用意しておく必要がある。


 ちょうど昼だったので、炒めてみるかと考えて。

 さっと洗って筋引きし、油をひいてよく熱しておいたフライパンに投入。

 強火でじゃじゃじゃっと炒めて、適当に塩コショウ。

 ニンニク醤油をまわし入れ、じゃーーーーーっという快音を追加、味を調える。

 白い皿に盛って緑と白のコントラストを楽しみつつ、口へ運んだ。


「うぉ、美味うまい!」


 濃い緑色のさやが熱々の油に濡れて、てらてらに光をはじく犯罪的な絵面。

 歯を当てれば期待に違わず、パリパリとした歯応えが延髄にまで響いた。

 さやの中に秘めた豆の、噛むとみちみちっと押し戻してくる若々しい質量感。

 なおも噛みしめると皮が弾け飛んで、極上の満足感を口の中に拡散させていく。


 そして味はといえば、塩コショウとエンドウ自体の甘みがよく絡んだところに、

 お待たせしましたとニンニク醤油の風味が鼻に抜けるのがもうたまらない。

 夏向けの元気の出るさわやかさ、そしてたくましさ。

 物を食べて生きていくという感じ、生命力があふれてくる感じだ。


 あつ、うま、あつ、うま、うま、あつあつ。

 勝手に動いて止まらない箸。


 気が付くと、フライパンにあれだけあったエンドウが一瞬にしてなくなっていた。

 愛飲のノンアルコールビールが数缶も空けられているという攻勢ぶりである。


「ぐぬぬ」


 やるなお隣。

 こうなることを見越して持ってきたか。


 物足りないので、スーパーまでスナップエンドウを買いに行こうと考えた。

 先ほどまでの苦手意識はどこへ行ったのやらと思うが、人間そんなものだ。


 首尾よくエンドウを購入した帰りに。

 スーパー入り口の種コーナーに目が向いた。

 スナップエンドウの種が売っていた。


 そこでこういう考えに至る。


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 スナップエンドウ、食べてみるとおいしかったし継続して入手したい

 ↓

 しかし、そのつど買いに行くのが面倒だし、棚に並んでいるかも不明だ

 ↓

 いっそ、種を植えておけばそれなりに実が生ってくれるんじゃないか

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 こ・れ・だ。


 この種を、家の庭に植えてみよう。

 あとは待っていればお隣さんみたいに実が生って収穫してニンニク醤油でビール。

 最高だよノンアルだけどね。


 そういうわけで種も買って帰った…というのが導入だ。


 さて、この文章は何の計画性もないので、更新も継続も不定期だ。

 書き溜めてもいないし、続くかどうかも考えていない。

 だから、先に現時点での状態を…というか、オチを書いておく。


 2019年9月16日現在、俺は自作のスナップエンドウをいまだに口にできていない。

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