刻むは時を爆弾時限

弐刀堕楽

 銃弾じゅうだんうビルのなかを俺は走りつづけた。

 敵にかまっている余裕などなかった。約束の時間がせまっている。ドクターは時間に厳しい。タイムリミットはあと1時間を切っていた。

 今回ばかりはぜったいに失敗は許されない。もっとも俺は許されぬ失敗などしたことはないのだが。


「裏だ、裏に回れ!」


 背後から怒声どせいがひびく。バカなヤツめ。そんなふうに大声を出したら作戦が筒抜つつぬけじゃないか。まあ、もとよりビルの外に出るつもりはなかったけどな。

 俺は不意打ちで方向転換てんかんをかますと、近くに見えた階段めがけてかけ出した。複数の足音に、キュッと床面をこする靴音くつおとじり合う――おっと! 後ろで誰かが転んでうめき声をあげた。

 銃声に次ぐ銃声。俺の目の前で、階段のタイルが一枚はじけ飛んだ。


「ちゃんとねらえよ、マヌケ野郎」


 捨てゼリフを吐いて階段を登りきる。一気にてっぺんを目指す。

 屋上の扉は閉まっている可能性が高い。先を読んで拳銃けんじゅうを取り出す。あんじょう、扉は閉まっていた。すかさず鍵穴にむけて何発か銃弾をブチ込む――よし! 扉が開いた。さっさとずらかるぞ。

 屋上に出ると太陽がまぶしかった。周りにはどこにも逃げ場がないように思えた――とまあ、少なくとも素人ならそう考えちまうだろうな。だが俺はプロだ。事前にシミュレーションはんでいる。

 背後でバンッと扉が開く音。連中のうちの一人が追いついたようだ。最近の警察はたるんでいると思っていたが意外だったな。なかなか足腰の丈夫じょうぶなヤツも混じっているようじゃないか。いや、関心している場合ではないか。

 扉の前で、年の若い警官が銃をかまえて声を張り上げた。


「動くな! 武器を捨てろ!」

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