第362話 それぞれの想いを胸に


──ピンポーン


「ん? 今度はなんだ?」


 雄三さんに高山を差し出し俺は席を立つ。

あとは任せた! ちょっとだけ高山の視線が俺の胸に突き刺さる。


「はーい!」


 玄関を開けると知った顔ぶれが……。


「司、今日からよろしくな」

「父さん、なんでここに……」

「杏里ちゃーん!」


 母さんは俺の顔を見た直後、さっさと部屋に入ってしまった。

そして……。


「司兄、よろしくね!」

「へ? 何のことだ?」

「何って、冬休みの間勉強見てくれるって。ね、おじさん」

「あぁ、伝えていた通り今日から冬休み明けまでしっかりとみてやってくれ」


 何のことだ? もしかして俺が忘れているのか?


「えっと、聞いていないんだけど?」

「そんなことはないだろ? 母さんから聞いていないのか?」


 全く聞いていません。

もし聞いていたらしっかりと準備していますよ!


 とりあえず、真奈の荷物を玄関に置き、みんなで台所に。

この人数だとさすがに台所も狭く感じる。


「雄三、帰国したのか? というか、なんだその恰好は。ぷぷっ」


 あの父さんの顔が緩んでいる。

雄三さんのサンタはそんなにレアなのか?


「……うるさい。なんだ? 突然来てその態度は」

「まぁまぁ、そのコスプレも可愛いじゃない。杏里ちゃんのためにしてきたんでしょ?」


 雄三さんの顔が少しだけ赤くなる。


「ふん。たまたま部屋にあっただけだ」


 そんなことあるかーーい!

と、心の中で突っ込みを入れる。


「杏里姉、今日からよろしくね!」

「真奈ちゃん? えっと、何をよろしくなのかな?」


 杏里も聞いていない。


「彩音ー、お昼はー」

「ちょっと待ってね。そろそろできるから」


 会話がカオスだ。

昨日はあんなに静かでまったりだったのに、今日は朝から……。


「冬休みの間、ここで勉強会? 受験対策?」


 杏里の視線が俺をとらえる。

俺も聞いてません。


「母さん、司には伝えていたんだろ?」

「え? 龍一さんが伝えていたんじゃ……」


 なにこの夫婦。行き違いじゃないですか!


「おじさんも、おばさんも司兄に伝えていなかった?」

「ま、大丈夫でしょ! 杏里ちゃん、真奈ちゃんことよろしくね!」

「は、はいっ!」


 なんだか無理やり押し付けられた。

だが、真奈の受験対策も追い込み。ここで杏里の力は必要だろう。


「おっけ、俺も手伝うよ。真奈の高校受験合格がかかっているからな」

「あ、だったら良も一緒にいいかな? あの子も受験するだろうし」


 もぅ、なんでもいいです。

好きにしてください。


「彩音ー、俺も手伝うぞー! ごはんみんな大盛りでいいよな!」


 一人ベクトルの違う高山。


「俺も大盛りで!」


 杏里と二人っきりの時間もいいけど、こうしてガヤガヤと過ごす時間も悪くない。


「できたよ! お昼にしましょうか」


 杏里と杉本の準備したクリスマスランチ。


「真奈ちゃんもこっちお願いできる?」

「うん、任せて!」


 テーブルに並ぶおいしそうなごはん。


「杏里の手作りか……」

「あら、杏里ちゃんのお料理おいしそう。腕を上げたのねっ」

「今日最中はないのか……」


 それぞれが想いを胸に。


「彩音のご飯もおいしいですよ! ほら、これなんか最高に!」

「高山君、取りすぎだよっ」


 その日を、その時間を大切に。


「司君、どれ取ろうか? お肉とポテト、あとサラダでいいかな?」

「ん、杏里がとってくれるなら何でもいいよ」

「そう、じゃぁ私のおすすめを盛りっとね」


 彼女の微笑みをずっと見ていたい。

彼女の隣で、いつでもそばにいて。


「あ、司兄いいなー。私も同じのー」


 家族がいて。好きな人がいて、帰る場所があって。

そこは、温かく、いつでも自分を受け入れてくれる。


「みんな、準備はいいかな?」

「「はーい」」


 グラスを手に取り、それぞれの顔を眺める。

みんな微笑み、今この時を楽しむ。


「メリークリスマス! かんぱーい!」

「「メリークリスマス!」」


 来年も、再来年も、その次のクリスマスも。

今日と同じようにみんなで笑って過ごしたい。


「司君」

「ん?」

「楽しいね」

「あぁ、楽しいな」


 こうして、杏里と初めて過ごしたクリスマスは幕を閉じていく。

それぞれの想いを胸に残して……。


─<あとがき>────────────────────

これにて五部完結です。


ここまで長くお付き合いいただき、ありがとうございました。

以下、本編とは全く関係ありません。


作者の独り言です。










85万文字という個人が書いた小説を、ここまで読んでいただけ感謝いたします。

第五章に入ってから色々とあり、なかなか執筆が進みませんでした。


一番の大きな理由はコロナというウィルスが社会に蔓延し始めたことです。

仕事の変化。そして、生活スタイルが大きく変化したことが原因です。


今までと同じようにはできない。

でも、あきらめてはいけない。そんな日々が続いていました。

エタったかと思っていた読者の皆様、大変申し訳ありませんでした。

これからも、更新頻度は落ちますが、更新していきます!


そして第六部は三人生活のスタート!

現時点で決まっているプロットは二年生になる、ということだけ。

さて、どんなイベントがまっているのか!


これからも、よろしくお願いします! 




そして、最後に読者の皆様へお願いがあります


「続きが気になる!」「なかなか面白かった!」「少しでも作者の応援をしたい!」

と少しでも思っていただけましたら、☆応援を【★★★】にして頂けると作者が大変喜びます。


また、五部も終わりましたので、作品や作者フォローをお忘れの方がいらっしゃいましたら合わせてご登録をお願いいたします。

それでは、ここまで長い時間を費やし、読んでいただけた読者の皆様。

本当にありがとうございました! 第六部で会いましょう!


手洗い、うがいはしっかりと!

最終話までお付き合いいただければ、作者も本望です!

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