第338話 あたたかいお布団で


 数日経過し、杏里とギクシャクしていた生活が嘘のようになった。

一緒に起きて、ご飯を食べる。

学校まで一緒に行き、昼休みもみんなで過ごすようになったし、放課後は二人で手芸部に顔を出すようにもなった。


「どうですか? それなりに形にはなってきたと思うんですが」

「そうですね、ずいぶん上達しましたね。姫川さんも初めのころと比べるときれいになっています」


 杏里と俺のマフラーを見ながら辻本さんも微笑んでいる。

返されたマフラーは俺たちの手に戻ってきて、それぞれバッグにしまい込んだ。


「そろそろ私が教えることもないですね。あとは二人で頑張ってください」

「わかりました。お忙しい中、ありがとうございました」

「ふふっ、二人は似た者同士ですね。本当に仲が良くて妬けちゃいますよ」


 杏里と視線を交わし、無意識に笑顔になってしまう。

つい最近まで手芸部には別々に来ていたけど、そのあたりの事は何も言われなかった。


 手芸部を後にし、二人で下校。

つないだ手は温かく、杏里のぬくもりを感じる。


「すっかり寒くなったね」

「だな。もうすぐクリスマスだね。どうやって過ごそうか? 街に出かけるか?」


 少しの沈黙。

杏里はどこか行きたいところとかないのかな?


「司君と一緒に過ごせるんだったら、どこでも。家でもいいし、街でもいいし。でも、できれば二人っきりで過ごしたいな……」

「そっか。じゃぁ、当日はずっと一緒にいようか。俺も杏里と一緒にいたいし」

「うんっ。今から楽しみだね」


 握り返された手は、温かく彼女の思いが伝わってくる。

その手を握りしめ、二人で一緒に同じ家に帰る。

あー、俺って超幸せ者!


 その日の夜も一緒に編み物をして、ゆっくりとした時間を過ごした。

特に会話はないけれど、同じ場所で同じことをするのも悪くないな。

しかし、今日は少し冷えるな。


「杏里」

「なに?」

「そろそろ寝るか? もう十二時過ぎてるぞ」

「ほんとだ。じゃぁ、続きはまた明日にしようか」


 杏里と洗面所に行き、一緒に歯を磨く。

並んだコップに色違いの歯ブラシ。もし、夫婦になってもこんな感じなんだろうか。


「司君」

「ん? どうした?」


 ピンクのかわいいパジャマを着た杏里が、なぜかもじもじしながら俺を見てくる。

なんだろう? 何か言いたいことでもあるのか?


「あのね、今日、その……」


 なんとなく察する。


「一緒に寝ようか? 今日は冷えるんだって」

「うん! 枕持ってくるから先に寝てて」


 階段を駆け上がっていく杏里。

その後姿を見送り、先に布団に潜り込む。

しばらくすると枕を抱きしめた杏里が部屋に入ってきた。


「お待たせ」

「ほら、早くおいで」


 布団を開け、杏里を招き入れる。

俺の枕の隣に杏里の枕が設置された。

そして、もそっと俺の布団に潜り込んでくる。

杏里に布団をかぶせ、俺も布団に潜り込んだ。


「あったかい……」


 杏里の顔がいつもよりも近い。

そして、いい香りがする。


「杏里、抱きしめてもいいか?」


 無言でうなずく杏里。

俺は、そっと腕を回し杏里を抱きしめる。

彼女のぬくもりを感じ、少し強めに抱きしめた。

杏里も俺の背中に手を回し、抱き着いてくる。


「司君。ずっと、このまま。ずっと一緒にいようね」

「うん。ずっと一緒に。俺も杏里といつまでも一緒にいたいよ」

「好き、だよ」


 杏里の唇が俺の頬に触れる。

そんな彼女が愛おしく、力強く抱きしめた。


「俺も杏里の事好きだよ。世界で一番、誰よりも……」


 重なる唇。

寒い冬。冷たい風が吹き、そろそろ雪が降る季節。

そんな寒い外とは異なり、俺と杏里の寝ている布団は愛であふれていた。


「杏里……。好きだよ」

「うん……」


 そして、俺たちはお互いの愛を確かめ合うように、一晩を過ごした。

大好きな杏里、この先も俺はずっと杏里と一緒にいるよ。

だって、俺はこんなにも杏里の事が好きなのだから。

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