第335話 秘密の買い物


 学校に着くと教室には高山と遠藤はいるが、杏里と杉本の姿がない。

いつもだったら席についているはずなんだけど……。


「高山、杏里知らないか?」

「姫川さん? さぁ、今日はまだ見てないけど? 彩音も朝からいないんだ。天童は知らないか?」


 杉本も不在。二人でどこに行っているんだろうか……。


「おはよ、二人とも」


 遠藤もやってきた。

もしかしたら遠藤だったら知っているかもしれない。


「遠藤、杏里を知らないか?」

「姫川さん?」


 ん? 一瞬だけど、遠藤が動揺した。

俺はその一瞬を見逃さなかったぜ。


「姫川さんもだけどさ、彩音知らない?」

「杉本、さん?」


 なんだ遠藤の反応。

さっきからなんか動揺しているように見えるぞ?

俺は高山と視線を交差させ、無言でうなずく。


「遠藤、ちょっといいか?」


 まだホームルームが始まるまで時間はある。

尋問の時間くらいあるだろう。

無理やり遠藤の腕をつかみ、廊下に出る。


「遠藤、何か知ってるだろ?」


 窓際に遠藤を追い詰め、高山と一緒に問い詰める。

遠藤は何か知っているはずだ。


「二人の事は何も知らないな。ところで、優衣を見なかったかい?」

「井上さん? いや、今日は一度も見ていないけど……」

「そうか……。三人ともいないのか」

「彩音も最近付き合いが悪いんだ。なんか、避けられている気がする」

「杉本さんも? 杏里も最近様子が変なんだよ」


 井上も杉本もいない。一体何が起きている?

そんな話を廊下でしていると、聞きなれた声が聞こえてきた。


「三人とも、何してるの?」


 井上が声をかけてきた。

三人とも制服にコートを羽織っており、バッグを肩にかけ、いつも通りに見える。

特に変わった様子はない。


「いや、なんでもない……」

「優衣、どこに行っていたの?」

「彩音も朝からいなかったよな?」


 今朝の杏里はなんだか冷たい目をしている。

こんなこと今まで一度もなかったのに。


「何でもないよ、三人でちょっと話していただけ」

「そうそう、まったく気にしなくていいよ!」

「井上さん、そろそろホームルームが始まるよ、早く教室に戻らないと」

「え? もうそんな時間? じゃ、また明日ね」


 井上が自分の教室に向かって走っていく。

また明日? 明日も何かあるのか?


「彩音、早く教室に戻ろ。ほら、三人ともホームルームに遅れるよ」


 杏里に言われ、しぶしぶ教室に戻る。

そして、迎えた放課後。


「杏里、一緒に帰らないか?」


 いろいろと話しがしたい。

昨日も今日も杏里と話す時間がなかなか取れなかった。


「ごめん、今日はちょっと予定が……」

「そっか。じゃあ先に帰ってるよ」


 なんだか避けられている。

杉本とか井上とかと何かするんだろうか?

気になるけど、深入りはしない方がよさそうだ。


 そして、帰る前に手芸部により、辻本さんにマフラーを見てもらう。


「なかなかうまくなってきましたね。慣れてきましたか?」

「なんとなく」

「そろそろ新しい毛糸でプレゼント用の方を作り始めましょうか」


 やっとお許しが出た。


「わかりました。頑張ります」

「ふふっ。もうすぐですね、楽しみでしょ?」

「はい、杏里のびっくりするところが今から楽しみです」


 俺は少し浮かれながら昇降口に向かって歩き始めた。

やっと本番の毛糸で編める。あとは、時間との勝負。

杏里、喜んでくれるかな……。


 あ、そうだ。

図書室で編み物の本ってないのかな?

ちょっと探してみるか。


 帰る前に図書室による。

編み物の本はどこだろう。図書委員に聞いてみるか。

カウンターには誰もいないので、図書室の中を見回す。

あ、いたいた。


「あのー……」

「天童さん?」


 あれ? 杉本だ。

ん? さっき杏里は予定があるって言っていたはず。

杉本と一緒じゃないのか。


「杉本さん、今日は図書委員の仕事なの?」

「そうだけど、何か探し物?」

「……いや、なんでもない」


 俺は本を探さずに図書室を後にした。

杏里、一体どこで何をしているんだ?

どうしても気になり、杏里にメッセを送る。


『今どこで何してるの?』


 しばらくすると返事が来た。


『街で買い物中。帰り、遅くなります』


 街で買い物? 一人で? それとも井上と?

気になる、どうしても気になってしまう。


 俺は一人で街に行き、杏里を探してしまう。

いったいどこにいるんだろうか。

むやみに探しても見つけられないだろう。


 なんだか無駄足になってしまいそうだ。

少しアーケードをぶらつき、杏里を探してみる。

いるはず、ないか……。


 あきらめて駅に向かう途中、見慣れた姿が視界に入ってきた。

奇跡、杏里がいた!


 隣にいるんは遠藤? なんで二人でいるんだ?

しかも、にこにこしながら二人でファッションビルに入っていく。

そして向かった先はメンズのフロア。

杏里がおしゃれな服を手にとり、遠藤に合わせている。


 え? なんで?

なんで遠藤に合わせているんだ?

杏里も笑顔で服を選んでいる。

お前たち、いつからそんな仲だったんだよ……。


 そして、杏里は何着か服を手に取りレジに。

渡された袋はクリスマス用のラッピングがされている。

笑顔の杏里に、遠藤も笑顔で返している。


 なんだよ、お前たちなんなんだよ!

隠れて二人で買い物?

俺の事は避けているのに遠藤と仲いいのはなんでなんだよ!

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