第333話 誤解
「高山ちょっといいか?」
昼休み、俺は高山と一緒に自販機にジュースを買いに教室を出た。
大体いつものメンバーでお昼を食べることが多く、なかなか高山と二人になる事ができない。
「なんだよ? 何か悩み事か?」
「まぁそんなところだ。アリバイ工作に手を貸してくれないか?」
「アリバイ? まさか、お前浮気とか……」
「違う! 浮気なんてするはずないだろ! 杏里に内緒でマフラーを編んでるんだよ」
高山が少し遠い目で俺を見てくる。
なんでそんな目で見るんだよ、男の俺が手編みとか、変に思っているのか?
「手編みのマフラーか……。いいな、温かそうで。天童らしいくていいんじゃないか?」
「おう。内緒にしたいんだけど、なかなか時間がね。放課後学校に残りたいから、高山と勉強しているってことにしてくれないか?」
「別に家で編めばいいんじゃ? わざわざ学校に残ることもないだろ?」
「家だとほとんど杏里と一緒だし、なかなか一人になれないんだよ」
突然わき腹に痛みが走る。
高山のグーパンが炸裂した。
「のろけか? 一緒に暮らしているからって、のろけを聞かされるのか?」
「い、痛いじゃないか。別にそういうわけじゃない。びっくりさせたいだけなんだよ」
「うーん、協力したいけど、嘘をつくのはあんまり好きじゃないな。家で何とか頑張ってみろよ」
「そっか。ま、高山らしい回答だな」
お互いにジュースを手に持ち、教室帰る。
高山もプレゼントを決めたらしく、家で作っているらしい。
お互いに手作りか。プレゼントの内容を聞いたがあの二人らしく、聞いていて和んでしまった。
何とか家で時間を作れないかな?
素直に杏里に一人になりたいからって、言ってみようかな……。
その日も少しだけ手芸部に行き、編んだ分をちょっと見てもらう。
ほとんどやり直しだけど、それでも少しは成長しているようだ。
「では、放課後に毎日見せに来てくださいね」
「わかりました。できるだけ家でも編んできますね」
手芸部の部室を出ると杏里と杉本に出くわしてしまった。
のぅぁー! なんでここにいるんですか!
「司君? こんなところで何しているの?」
まずい、何か言い訳をしないと……。
「あー、ちょっと部長に話がありましてですね……」
「辻本先輩に? 司君が? どんな話?」
ど、どうしよう……。
杉本も俺を見ながら、少し不安そうな表情をしている。
「そ、相談。辻本先輩に相談していたんですよ」
「相談……。それって、私には話せないの?」
話せません! 杏里に秘密にするためにこっそり通っているんですから!
「話せない……」
杏里の表情が曇る。
いつも笑顔の絶えない杏里が、俺を睨んでくる。
「っそ。辻本先輩、美人だし、面倒見がいいですからね」
「ちがう、そういう意味じゃ――」
「行こう彩音。天童さん、私帰るの少し遅くなります。先に帰っていて下さい」
俺の横を通り抜け、杏里と杉本は俺の前から去っていく。
「杏里! 待ってくれ!」
「私も忙しいので。では……」
杏里と杉本は手芸部の部室に入って行ってしまった。
杏里に誤解された。絶対変な風に誤解しているよ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます