第324話 大人になっても


 駅から徒歩数分。俺達は動物園前のゲートに着いた。

良い天気、いい感じの風が俺達に吹いている。

遠くの山は紅葉しており、季節はすっかり秋だ。


「司兄! 早く入ろうよ!」


 真奈はゲートに向かって走っていき、少し遠くからこっちを見て手を振っている。

俺達は早速受付を行い、ゲートに向かって歩き始めた。


「動物園なんて小学校以来だな!」


「私も。今日はみんなで楽しもうねっ」


 高山夫妻も少しはしゃいでいる。

ふっ、俺はこの位でははしゃがない。大人の男なのだ。


「司君。早くこう! 私、キリンが見たい!


 俺の手を取り杏里もなぜか急いでいるようだ。


「そんなに慌てなくてもキリンは逃げないだろ?」


「いいの! ほら、みんなも待ってるよ!」


 しょうがないなっ!

そんなに言うのであれば、ささっと行きますか!


「よし、じゃぁ初めはキリンを目標に行こうか」


「うんっ」


 みんなでゲートをくぐり、キリンを目指して進む。

位置口近くにはカバやサイなどの大きな動物がおり、みんなで眺める。


「良君! カバだよ! 口大きいねー」


 そんな真奈の口も大きく開いており、さっきから真剣にカバを見ている。

良君も真奈の隣に立っており、遠目から見たらいい感じだ。

ちょっとサポートでもしますかね!


 カバを横目に進んでいき、第一目的地のキリンに到着。

杏里と腕を組みながら、ゆっくり見る動物園も悪くない。

むしろ、いい! 


「司君、キリンの首長いね! ほら、葉っぱ食べてる!」


「おぉ、間近でみると、でっかいな……」


 柵の向こうにはキリンが数頭見える。

動きはゆっくりしているが、つぶらな瞳が可愛い。


「彩音、隣に象もいるぜ! 見に行こう!」


 杉本の手を引き、隣の象を見に高山は先に行ってしまった。

おーい、勝手に動くと迷子になりますよ!


「良君! あそこに司兄が沢山見えるよ!」


 俺? なんで俺なんだ?

真奈の指さす方を見ると、猿山が見える。

おい、なんで俺なんだよ!


「えっと、真奈ちゃん。それはコメントしにくいかな……」


「見に行こう! きっとバナナとかあげられるかも! 司兄もバナナ好きだし」


 だから、なんで俺と関連付けるんだよ!


「真奈、勝手に動くと迷子になるぞ? 迷子になって放送されたいか?」


「うっ、それはちょっと……」


「ふぅ……。俺は杏里とゆっくり見たいから、先に行っててもいいよ。待ち合わせの時間と場所を決めておこうか」


「オッケー! じゃぁ、お昼に子供ランドの広場で! 行ってきまーす! 良君行こう!」


「う、うんっ! では、また後で――」


 真奈にやや強引に腕を持っていかれた良君は、話しの途中にもかかわらず目の前から消えた。

まったく、真奈もごういんなんだからっ!

さて、高山達を追いかけるかな。


 ……ん? 別にいいか。きっとその辺にいるだろうし、あっちも二人っきりになりたいだろうし。

あとでメッセージの一本でも送っておくか。


「杏里、どうする? 高山達追いかける? それともメッセ一本送って、このままゆっくり二人で回る?」


 少し考え込んでいる杏里。そして、俺の腕に絡んできた。


「このままが、いいかな?」


 少し照れながら小声で話してきた。

俺もそれでいいと思います!


「じゃ、一本連絡を入れて、ゆっくり回ろうか」


 俺は高山に一本連絡を入れ、お昼に合流することにした。

さて、次は何を見に行こうかなー。


「杏里は次、何見たい?」


「うーん、何でもいいよ。司君とゆっくり園内を見て回れれば。どこでもいいかな」


 くそー! 可愛いぞ杏里! その表情まさに天使だ!

動物園に天使がいますよ!


「じゃぁ、適当に見て回ろうか」


「うんっ」


 杏里と一緒にぶらつく。

クジャクを見て綺麗な羽を見たり、ウサギと触れ合ったり。

杏里がウサギを抱っこすると、なぜかドキドキしてしまう。

家にペットはいないけど、猫とかウサギとかいたら杏里の笑顔も増えるのかな?


「司君! モフモフだよ! 可愛い!」


 そんな杏里も可愛いよ!

ウサギじゃなくて、杏里をモフモフしたいです!


「どれ。じゃぁ、俺も抱っこしてみようかな……」


 抱っこしようと一匹のウサギに近づく。

が、逃げられた。なぜ?


 逃げたウサギはなぜか杏里の足元に。

そして、杏里は二匹目をゲット。


「司君、嫌われてる? 両手にウサギさん抱っこすると、すごくモフモフするよー」


「……良かったね。写真撮ってあげるよ」


 俺のスマホに両手にウサギの杏里が映っている。

おーう、可愛い! この可愛い写真の為だったら、俺はウサギに逃げられてもいい!


「あーん、可愛いかった! ウサギさん、モフモフだよー」


 杏里の声も甘い。

普段見せないような表情でウサギを抱きしめている。

……ウサギに嫉妬なんてしてません!


 ウサギを堪能し、少し近くの木陰になっているベンチで小休憩。

ふぅ、少しだけ疲れたかな。


「お茶飲む?」


 杏里がバッグからボトルを取り出した。


「飲む」


 杏里から手渡されたカップにお茶お注ぎ、一休憩。

少しだけ冷たい風が吹き、俺達を包み込む。

遠くに見える家族連れ。子供は肩車されて、その両親も楽しそうに微笑んでいる。


 俺もいつかあんな風になるのだろうか……。


「司君、動物園楽しい?」


「楽しいよ。杏里は?」


「楽しい。みんなも楽しんでいるのかな?」


「楽しんでいるだろ。多分高山はライオンとか見に行っている気がする」


「奇遇だね。私も同じこと思ってた」


 杏里と目が合い、互いに微笑む。

やっぱり杏里と一緒にいるのが一番和むし、心安らぎますね。


 ふと、俺達に近づいてくる人影。


「あの、もしかして昨日テレビに出ていましたか?」


 見た感じ二十代の女性。

少し離れた所に男性も立っており、こっちを見ている。


「えっと、少しだけ出ていました……」


「やっぱり! 本物だ! 純平! やっぱりそうだよ! 結婚した二人だよ!」


 してません!

まだ式は挙げてませんよ!


「姫川さん、ドレス姿綺麗だったよ! すごいね、高校生で結婚するなんて」


「あ、ありがとうございます」


 少し照れている杏里。

誰かに見られているかとは思ったけど、一般の人も見てるよね……。


「じゃぁ、君が天童君?」


 男の人が声をかけてきた。


「そうですが……」


「昨日テレビで見たよ。良い式になったみたいだね。彼女と幸せにね」


「ほら、純平。もう行こうよ、二人の邪魔しちゃだめだしょ?」


 女性が男性の腕に絡んで、その場を離れようとしている。


「分かったよ。でも初めに話しかけたのは雅だろ?」


「うっ、そうだけど……。じゃ、二人共お幸せに! またねっ」


 突然現れて、去っていく二人。

あの二人も結婚しているのかな?

でも、リングはしていなかったから、これから結婚するのかな?


 離れて行った二人は、幸せそうに互いを見ながら歩いている。

きっと、幸せなんだろうな……。


「杏里」


「なに?」


「大人になっても、俺達あの二人のように幸せになれるかな?」


 杏里の手が俺の手に重なる。


「きっとなれるよ。私達なら、きっと幸せな家庭をつくれると思うよ」


 秋の風が優しく吹く中、俺と杏里は手を取り、ほんの少しの時間だけ休む。

ベンチには俺と杏里だけ。今この時間は、俺と杏里だけの時間だ。

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