第262話  イベントの資金集め


 その日の放課後に五人で集まり、一回目の打ち合わせをする。

そして、イベントのタイトルが決まったので、早速杉本がポスター作成をすることになった。


「杏里はやっぱり白のドレスが良いのかな?」


 杉本が大きめの画用紙にラフ画を描いていく。

今の時点では全く形にはなっていないが、ゆくゆく形になっていくだろう。


「そうだね。やっぱり真っ白なドレスにあこがれるな……」


 杏里は少し遠くを見ながら、何かを思い浮かべているのだろう。

杏里のドレス姿、俺も今から楽しみでしょうがない。


「オッケ。原本はしっかりと書いて、あとはカラーコピーでポスターを作ろう」


 図書室の自習室は静かで話もはかどる。

杉本が放課後に場所をとっておいてくれて助かりましたよ。


「で、天童。予算はどの位なんだ?」


 日程は決まっている。場所も体育館を貸し切る。

決めなければいけないのは当日までのスケジュールと、文化祭当日の流れ。

そして、先生に言われた予算内に収まるかが大きな問題だ。


「今回のイベントで俺達に与えられた予算は十万円しかない」


 帰りのホームルームが終わったあとに先生から渡された簡易資料。

そこには当日までの大まかなスケジュールと場所の案内。

そして予算や使用できる道具などが書かれていた。


 基本的には俺達で立案し、先生が確認。

問題が無いようであればそのまま進める事ができる。

先生自体はあまり関与せずに、俺達だけで進めるようになっている。

イベント自体、俺達の力が試されると言う事だ。


「十万円しかないのかい? 足りないと思うんだけど?」


 遠藤の言うとおり。

はっきりいって全く足りないだろう。

だからと言ってみんなからカンパしてもらったり、自腹を切るのも変な話だ。


「だよな。初めに資金をどうするかを考えないと話が進まない」


 何をするにしてもお金がかかる。

現実は非常に厳しいものなのだ。


「杏里と杉本さんはスケジュールを考えて、男三人で資金集めでもしますか」


 と、提案したもののどうしたものか。


「天童。俺に一つ名案がある」


 待ってました策士高山。

お前のその幅広い知識が俺達には必要だ。


「よし、高山。その案聞かせてくれ」


 ふふんとにやけながら高山は席を立つ。


「いいか? ようは稼げばいいんだろ? 遠藤は何か楽器できるのか?」


「楽器? ベースなら少しやった事あるくらいだけど?」


「おぉ、出来るのか。天童は?」


 楽器。いや、俺にそんな話を振らないでほしいな。


「いや、俺はちょっと……」


「何だよ、出来ないのか?」


「だったら高山は何かできるのか?」


 高山にはタンバリンとかカスタネットが似合いそうだな。


「俺か? 俺はギターとドラムできるぞ。家にもあるしな」


 なんですと! まさかのギタリストであり、ドラマーですか!


「まじか?」


「まじだ。なんだ、天童も何か楽器できるんだったらストリートで儲けようと思ったのに」


「却下」


 そんな時間ありません!

しかも、稼ぐと言ってもそんなに大きな金額無理だろ!


「なんでだよ。アーケードで良くギター片手に歌っている人いるじゃないか」


「ダメだ。そんな時間あるんだったら他の事を進めないと。そこで三人も時間を取られている余裕はないぞ」


「確かに……」


 なんだ、高山の名案も今回はボツですか。


「あのね」


 杏里が話に混ざってきた。


「何か案があるのか?」


「結婚式って初めに招待状とか配るでしょ? そこにさ、お店とか企業の名前を入れて協賛って形で資金集められないかな?」


「招待状に会社の名前を入れるのか?」


「そう。良く文化祭とかでもパンフレットに企業の広告枠ってあるじゃない。それと同じことを私達もできないかな?」


「でも、招待状ってそんなに配布するのか?」


「うん。文化祭のパンフレットに一般席の招待状もはさむの。実際に式に呼んで個人で席に座ってもらう方々には専用の招待状。そうすればイベントも沢山の人が来てくれるんじゃないかな?」


 体育館で普通のテーブル席だけだと確かに何もない場所ができてしまう。

でも、今回はイベントだ。たくさんの人に来てもらって、見てもらう必要がある。


「いいんじゃないか? 普通にテーブル席だけだったら百人いないだろ? もっと人を呼ぶんだったら誰でも見れるようにして、たくさんの人に知ってもらった方がいいと思うぜ!」


「僕も賛成だな。今回のイベントは多くの人に見てもらう価値がある。体育館を満席にしようじゃないか」


 高山も遠藤も賛成のようだ。


「杏里、ポスターのラフ。こんなのでどうかな?」


 杉本の手にはラフとはいえ杏里がドレスを着ているイラストが描かれている。

そして、イベントの名前『ハイスクール・ウェディング』のロゴがしっかりと書かれていた。


「綺麗だね……」


 ポスターのラフを見る杏里の目は優しく、そして微笑んでいる。


「よし、協賛してくれそうなお店だったり企業に直接話を持って行って協力してもらおう」


「っしゃ! だったら俺はとりあえず親とねーちゃんに打診してみるぜ!」


「僕も心当たりがあるから話を持っていってみるよ」


「よし、リストを作って被らないようにしないとな」


 動き出した文化祭のイベント。

絶対に成功させてやる!

待ってろよ杏里、たっぷりと資金調達してくるからな!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る