第263話 交渉


 俺は放課後一人で結婚式場に来ている。

既にアポは取っており、今回のイベントについて話をする予定だ。


 杏里と杉本は学校に残り、高山と遠藤はそれぞれ資金調達のために旅立った。

俺が真っ先に思いついたのが先日、色々とお世話になったこの式場。

もし結婚式場から協賛してもらえれば今回のイベントも一歩成功に近づく気がする。


「お待たせいたしました」


 応接室に案内され、しばらく時間はかかったが、黒金さんがやって来た。


「いえ、わざわざお時間作って頂きありがとうございます」


 今日は先日と違って制服のまま来てしまった。

しかし、式場に高校の制服がなんとも違和感がありすぎる。

かなりの場違いなのではと思ってしまう位だ。


 すれ違う人の目が俺に突き刺さっていたが、それはそれでしょうが無い。


「それで、今回のお話と言うのは?」


 俺は学校で文化祭に行う発表の事を話し、当日までの大まかな流れを話した。

そして、イベント自体は生徒自身で進めていく事と、そのための資金が必要な事。


「なるほど……。ようはイベント行うための資金と人が足りないと言う事ですね」


「ざっくりお話しするとそんな感じです」


「時間もそこまで多くは無いですね……」


「はい。今から色々と準備をしていく上で、メンバーは何とか集まるとしても予算が……。何とかご協力お願いできないでしょうか?」


 ダメもとで話をしてみる。

杏里の提案したパンフレットや招待状に企業名を入れての広告。

イベントの内容も結婚式がメインとなる為、この式場から協賛をいただけると非常に心強い。


「うーん、正直なところ私の判断では何とも。そもそも会社には予算と言う物があってですね……」


 黒金さんいわく、そもそも予算に組まれていない場合は色々と難しいらしい。


「そうですか……」


「分かりました。一度上司に掛け合ってみますのでしばらくお待ちいただけますか?」


 黒金さんは俺にそう話すと席を立ち、部屋から出て行ってしまった。

多分協賛は得られそうにない。やっぱりそう簡単なことではないな。


 ポケットからスマホを取り出し、何か連絡が来ていないか確認する。


――メッセージが二件


 高山と遠藤からそれぞれ連絡が来ていた。


『天童! 親は失敗だ。今からねーちゃんに聞いてみる!』


『天童君、こっちは全滅してしまったよ。そっちはどうだい?』


 案の定、むこうもいい方向に進んではいないようですね。

もうアーケードで歌うしかないのか……。


――コンコン


「失礼します」


 黒金さんが戻ってきたと思ったら知らないおじさんがやって来た。

雰囲気からするに四十代後半位。身のこなしからきっと黒金さんの上司ではないかと推測する。


「天童さん、お待たせしました」


 先に入ってきたおじさんの後から、黒金さんもやって来た。


「紹介しますね。私の上司で村上と言います」


「村上です。いやはや、高校生なのに、色々と頑張っているらしいじゃないですか」


 ニコニコしながら俺の前に座り、こっちを見てくる。


「初めまして。天童と申します。お忙しい中、申し訳ありません」


「いえいえ、こちらもお若い方と接する機会が少ないので、逆に新鮮ですよ」


「ありがとうございます」


「天童さん、さっきの話の続きなんだけど、もう一度話してもらってもいいかい?」


 俺はさっき黒金さんに話をした内容をもう一度話す。

文化祭でイベントを行い、結婚式を披露する事。

そして、その為の人と資金が不足している事。


「……なるほど。文化祭で結婚式か、なかなか面白い企画だね」


「現状予算も人も少なく、学校側からは生徒任せで進める方針のようで……」


「黒金、例の部屋の改装はいつだった?」


「現時点の予定だと来週からですね」


「来週か……。天童君、その学校で行うイベントで使う道具とかも足りないんだよね?」


「そうですね。全て一から準備する予定です」


 テーブルとか椅子とかは学校の備品をそのまま使えるけど、それ以外の物は新しく準備しないといけない。

なんせ何も揃っていないのだから……。


「何人くらいに配布する予定かわかるかい?」


「式のイベントとしては百人位をテーブル席に。それとは別に一般席として四百人位を予定しています」


「ざっくり見積もって五百人。料理は学校側で準備するのかい?」


「今の所その予定です」


「そうか。よし、いいよ。協賛しようじゃないか。そして、改装予定の部屋で廃棄する予定だった物についても全て使ってもらって構わない」


 おぉ! マジですか! いいんですか!

心の中でガッツポーズを。そして大声でやったーと叫ぶが、表には出さない。

表情は崩さず、クールにいかなければ。


「村上部長、良いのですか?」


「良いだろう? せっかくの文化祭だ。その文化祭のイベントが印象に残り、将来的にこの式場を使ってもらえれば、そこにかける費用は安いもんだ」


「あ、ありがとうございます!」


 俺は頭を下げ二人にお礼を言う。


「具体的な金額は追って連絡するよ。私の一任で動かせる金額は少ないからね。あと、部屋で廃棄予定の道具についてはこの後黒金から聞いてくれ」


「分かりました! 黒金さん、よろしくお願いします!」


「村上部長も甘いですね……」


「同じ年の息子がいるんだ。応援したいじゃないか」


「仕事に私情は挟まないでくださいよ」


「どれ、私は企画書の作成をする。あとは任せたぞ」


「分かりました。天童君、改装予定の部屋に行こうか。そこで使えそうな物がないか、一度見てほしい」


 こうして、俺は黒金さんに案内され改装予定の部屋を見に行く。

協賛もお願いできたし、実際に式場で使っていた道具も貸してもらえるらしい。

金額はいくらになるか分からないけど、もしかしたらもしかするかも!


 俺は心臓が高なる中、黒金さんの後について行った。

杏里、君に早く伝えたい。この高なる気持ちを抑えるのに、俺は必死だった。


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