第243話 譲り受けるもの


 母さんに課題の内容を聞かれた。

別に隠す必要はない。


「今、社会で問題になっている事を議題として、その対策とかをまとめる課題なんだよ。その課題の出来が良かったら、文化祭で発表されるんだって」


「そっかー、それは頑張って貰わないとね! 司達はどんな議題にしたの?」


「俺達は少子化対策かな。十代とかで結婚式を挙げれば、出生率も上がるのかなって」


「うーん、若い時は……」


 母さんが何か話したそうだ。

何か間違っているのかな?


「え? なに?」


「ま、いっか! 司たちがどんな発表をするのか楽しみだね! 後で教えてねっ」


 母さんが笑顔で答えてくれる。

一体俺に何を話そうとしたんだ?


「分かった。まとまったら教えるよ」


「あ、だったらあれが資料になるかな?」


「何かあるの?」


「私と龍一さんの結婚式で使った道具一式と写真とか」


「そんなのあるの?」


「あるわよー! 道具一式まとめて下宿の一室に箱詰めしてる」


「ここには?」


「写真はあるけど、招待状とか名簿とか御品書きとか、その他もろもろは下宿だね。帰ったら探してみて」


「うん、探してみるよ」


「写真は持って行かないでね。大切な私と龍一さんの思い出だからさ」


 少しだけ聞かされる昔の話。

父さんと母さんが出会ってから結婚、出産、そして俺が今日にいたるまでを話してくれる。

細かくはないけど、今まで聞いた事の無い話を母さんがしてくれた。


 これって、俺も一人前って見てくれたって事か?

それとも、ただ課題の為に教えてくれているのかな?


「――と、言う感じねー。あら、もうこんな時間」


 気が付くとそろそろ日付が変わりそうだ。

時折二階から聞こえてくるギターの音を聞きながら、母さんと長話してしまった。


「そろそろ寝ようか」


 母さんが席を立ち、隣の部屋から何か持ってきた。


「はい、これは司に預けておくね」


 手渡されたのは小さなアルバムと、透明なケースに入ったディスク一枚。

これって……。


「いいの?」


「いいよ。私達からあなた達に渡せるものって少ないしね。無くさないようにね」


 杏里と一緒に写った写真。それに音楽の記録されたディスク。

俺と杏里を繋げるものでもあり、俺の大切な思い出の一つ。


 ま、全然覚えていませんけどね。


「ありがとう。大切にするよ」


 母さんと別れ、階段を上がり、布団にもぐりこむ。

相変わらず何か話している声が聞こえてくる。

この家の壁って薄くないか?


『勉強あきたー!』


『何言ってるの? 明日私は帰るんだよ? 可能な限り詰め込まないと!』


『あ、杏里姉! 詰め込み過ぎだって!』


『ほら、まだこんなに残ってるよ! せっかく準備したんだから全部消化しないと!』


『ひぇぇぇ! ま、まだそんなに!』


『ほら、ギターはまた今度。さっきも弾いたでしょ?』


『だ、だって。たった三分だよ? カップめんもできないし!』


『大丈夫、課題も三分あれば進むって!』


『終わる気がしないんだけど……』


『この量、司君もクリアしたよ?』


『司兄も?』


『うん。だから、真奈ちゃんにもいけるって!』


『いけるかな?』


『大丈夫。私も最後まで付き合うから!』


『うぅ、ありがとう! 真奈頑張る!』


 真奈、騙されているよ。

恐らくその課題は完徹課題だ。

普通にやったら終わらないぞ?


 この後、ギターの音も響いてこなく、静かな時間が流れる。

課題に集中しているようだ。


 俺も早く課題をまとめないと……。

少し眠気に襲われたとき、枕元のスマホが震えだした。


 誰だろ? メッセかな?

画面をタップし、届いたメッセを確認する。


 高山か。何かあったのかな?


『手短に! 応募したら当たった! たまたまだけど、当たった! 後はよろしく!』


 意味不明。

何が当たったんだ?

そして、後はよろしくって何?


『意味不明。詳細求む』


『今、実家だろ? 戻ってきたら直接話すよ! しかし、運がいいな!』


 答えになっていない。何か、良いものが当たったのかな?

おいしいのか? たくさんあるから一緒に食べる系か?

いいね、肉か? 果物か? どちらにしてもありがたい。


『いいのが当たったのか?』


『おぉ! 大当たりだぜ! 思わず彩音にも連絡しちまったよ』


 そうか、そんなにうまいものが当たったのか。

やるじゃないか、こっちも楽しみだぜ!


『分かった。明日帰るから近日中に話を聞く』


『かしこ! あ、姫川さんにも伝えておいてくれ!』


『分かった』


 意味不明なメッセ。

でも、なにか美味しいものが当たったに違いない。

ステーキ肉とかだといいなぁ。今から楽しみだ。


『お、終わらなーい!』


『まだ朝まで時間あるよ!』


『朝? 朝までするの?』


『そうだよ。集中する時は一気に進めないとねっ!』


『お、鬼だぁ! ここに鬼がいるぅ!』


『あら、失礼ね。これでも量減らしたのに』


『やっぱり、無理……』


『司君と同じ高校行きたいんだよね』


『うん……』


『受験前の夏休みで頑張らなかったら、いつ頑張るの? 私はもういなくなるんだよ?』


『ごめん。頑張るよ。さぁ、やるよっ』


 頑張れ真奈。杏里は手ごわいぞ。

でもな、努力した分結果は必ずついてくる。

今しんどくても、絶対に後悔はしない!


 その身を以て体験した俺が言うんだから間違いはない!

そして、俺は先に寝る。おやすみ二人とも!


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