第240話 女子トーク


 真奈に助けてと叫ばれ、出陣の準備を終える。

だがしかし、今の状況で乗り込んでいいのだろうか?

もう一度良く考えよう。


 音を立てずに壁側に転がり、聞き耳を立てる。

まずは、情報収集からだ!


『司君はもう寝てるよ! お布団に入ったら割と早く寝ちゃうからねっ』


 俺って即寝タイプだったのか……。

でも、なんで杏里は知っているんだ?

もしかして、俺が寝た後に見られている?


『ど、どうしてそんな事知ってるの?』


『え? そ、それは……。ほらほら、真奈ちゃんは司君の事好きなんでしょ? 本当は好きなんだよね?』


 突然真奈の笑い声が消えた。

どうやら杏里の攻撃が止まったようだ。


『今日一日考えた。司兄の事は昔から好き。それは間違いない』


『だったら……』


『でもね、真奈は杏里さんの事も好き。嫌いになりたかったけど、なれなかった。真奈よりも大人だった……』


『真奈ちゃんはそれでいいの?』


『分からない。でも、真奈のこの気持ち、司兄を家族と思って好きなのか、男性として好きなのかはまだ分からない。もう少し大人になったら分かるかもしれない。杏里さんと初めて会った時は取られたくないと、一心に思った。それも、間違いじゃない』


『わ、私は真奈ちゃんの事――』


『でもね! 司兄を見ていたら、何だか幸せそうに見えた。真奈が隣にいても、司兄は杏里さんしか見ていなかった。きっと、私はずっと、妹なんだよ。妹だったら、ずっと一緒にいる事ができる。杏里さんもずっと一緒に司兄と……』


『真奈ちゃん、そんな悲しい顔しないで……』


『初恋だったのかもしれない。真奈はそれでもいいと思った。初恋は実らないかもしれないけど、司兄も杏里さんも真奈にとっては大切な家族な気がする』


『真奈ちゃん……』


『だから、真奈に気を使わないで。これからも真奈のお姉ちゃんでいてよ』


『うん、ありがとう。真奈ちゃんと友達になれてよかったよ』


『友達? 姉妹の間違いじゃ?』


『そうだね、姉妹だね』


『そうだ! 勉強を教えてもらう代わりにギターを教えてあげるよ!』


『ギター?』


『そう、ギター! 百合おばさんが下宿から持ってきたって言って、真奈にくれたの! 司兄はてんでダメだってさ。こう見えても結構うまいんだよ!』


『だったら勉強と一緒にピアノも教えてあげようか?』


『うぇ、ピ、ピアノはいいかな? 真奈のがらじゃないよ』


 そういえば昔ギターを渡されたことがあったな。

少し弾いてみたら全然できなくて、すぐに返してしまったっけ。


『それはそうと、しっかりと受験対策もしないとね』


『あうー、勉強はあんまり得意じゃないんだよね』


『大丈夫。理解できるようになると勉強も楽しいよ』


『本当? 司兄と同じ高校に行けるかな?』


『大丈夫。一緒に高校生活楽しもうよ。同じ学校だったら私も嬉しいな』


『真奈、頑張るよ! 真奈が司兄の側にいないとまだ駄目だからねっ』 


 なんで俺の心配するんだ?

こう見えても結構優秀な方なんだけどな……。


『そうなの?』


『司兄は結構鈍感だから。真奈がサポートしてあげないと、杏里姉が逃げちゃう!』


『確かに、少し鈍感かもしれないけど……』


 おーい、杏里さん? そこはフォローしてくれても……。

何だかんだ言って、この二人は仲良くやっていけそうだな。

俺も、もっとしっかりしないと!


『そうそう、鈍感と言えばね――』


『そんな事があったんだ! でも、最近の司君は――』


『意外! 司兄がそんな事したんだ! 昔は――』


『そうなんだよ。いつもは気が付かないのに、この時だけはさ――』


 俺の話で盛り上がっている。

真奈、余計な事は絶対に言うなよ?

言わないよね? お願いします、言わないでください。


 女子トークにも華が咲き、服の事とか美容についてとか俺の良くわからない話に飛んで行った。

女子って話すの好きだよね! 布団にくるまりながら隣の部屋の話をこっそりと聞いていたが、だんだん眠くなってきた。


 盗み聞きは良くないけど、自分の事を話されていたら気になる。

時間も結構遅くなったが、女子トークはまだまだ続きそうだ。

そんな二人の話を聞きながら、俺の意識は次第に飛んでいった。



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