第241話 報告会


 ふと、気が付いた時にはなぜか腹の上に真奈が乗っており、完全なマウントポジション。

さらに両頬をつねられ、俺の顔はブルドッグにされている。

おい、勝手に部屋へ入って来るなよ。


「ふぁな? ふぁにしてるのかな?」


「それはこっちのセリフだよ。今何時だと思っているの?」


 手元のスマホをタッチし、時間を確認。

おっふ、寝過ごしてますね。

そして、俺の両頬は左右に飛び散った。


「あうちっ! い、痛いじゃないか!」


「痛いじゃない! もうみんな下で待ってるよ!」


「わかったからそこをどいてくれ。今行く」


「早くしてよね! あ、あと……、おはよう……」


「お、おう。おはよう」


 何か調子が狂うな。

どちらにしても、急がなければ。

適当に服を漁り、ダッシュで一階に。


「お、おはよう!」


「司、昨日寝る前に遅れないようにって言わなかったかしら?」


 母さんが少しだけ怖い。


「ご、ごめん」


「ほら早くご飯食べて。二人は出発の準備ね」


 何やら朝からパタパタしている。今日はどこに行くんだっけ?

俺の周りでみんながパタパタしているのに、一人でご飯。

ちょっと寂しいな。


「食べ終わったら行くよっ」


「どこに行くんだ?」


「着けば分かる。杏里ちゃん! 真奈ちゃん! これ車に積んでおいて!」


「はーい! さっきのはもう積んだけど、これで終わり?」


「これで終わり。後は寝坊助を車に積んだら行くわよ!」


 それは俺の事ですかね?

朝も早くからみんなで車に乗り込み、小一時間ドライブ。

この道って、もしかして……。


「んー、着いた!」


 母さんが車から降り、グイッと背伸びをしている。

みんなが車から降り、それぞれの手荷物を持って徒歩で移動。


 目的地の手前で桶に水を入れ、雑巾も合わせて借りる。

久々に来た霊園。


 俺のばーちゃんが眠っている所だ。


「さー、やるわよ!」


 母さんの掛け声とともに、雑草抜きや墓石を雑巾で拭く。

水を入れ替え、花を供える。俺の持ってきたおやつもしっかりとばーちゃんにあげる。


 線香に火をつけ、みんなでお墓参りだ。


「ここに、司君のおばーさんが眠っているのね」


「あぁ、ここにばーちゃんが寝ている。しっかりと杏里の事を報告しないとな」


「真奈は?」


「真奈は何回か来ているだろ?」


「そうだけどさー。せっかくだし一緒に紹介してよ」


「しょうがないな……」


 俺は手を合わせ、心の中でばーちゃんに報告をする。

杏里と出会った事。

一緒に生活を始め、お互いに手を取りあった事。

そして、これから共に過ごしていく事を。

真奈の事はついでに、いつでも元気ですと伝えた。


「おばーさん、何か言ってる?」


 実際に聞こえたわけじゃない。

もし、ばーちゃんが生きていたら何と言ってくれるだろうか。


「喧嘩しても、ちゃんと仲直りするんだよ。って言ってる気がする」


 生前、俺が友達と喧嘩をするとばーちゃんはすぐに言ってきた。

『仲直りしておいで。今じゃないと言えなくなるかもよ』。


 本当に嫌いになったわけではない。

ちょっとした、些細なことで喧嘩になってしまった。

でも、ばーちゃんはどっちが悪いとかではなく、両方が悪いと。

だから、どっちからでもいいから謝って、仲直りしておいでと。


「私達なら大丈夫。喧嘩しても、すぐに仲直りできるよ」


「司兄は杏里姉に逆らえなさそうだね」


 そんな事無い! 無いよね?


「お互いの意見を言い、話し合う事は大切だ。まぁ、真奈にはまだ分からないだろうな」


「そんな事無い! おばーちゃん、私には何か言って無いの?」


 あー、真奈にだったらなんて言うのかな?


「食べすぎ注意。お腹を出して寝ない事。かな?」


「な、何それ! 絶対に言って無いでしょ!」


「ほらほら、お墓で騒がないの。おばーちゃん起きちゃうでしょ?」


 そうだぞ、お墓で騒いではいけない。


「だって、司兄が……」


「はい! みんな元気に大きくなってます! 今年は杏里ちゃんも参加しました! また、みんなで来るからねっ」


 いつか、人は死ぬ。

誰にも避けられない事実がここにある。


 どうせ死ぬのが決まっているんだったら、何のために生きる?

死ぬために生きる。それは間違っていない。


 でも、どうやって生きるのか、どんな最後になるのかは自分で決められる。

俺は、家族も杏里もみんなで幸せに生きたい。

この世を去る時には、たくさんの子供に囲まれていたい。



 風が吹き、隣にいる杏里の髪が俺の頬をくすぐる。

杏里の目を見ると、杏里も俺の方を向き、微笑みかけてくれる。

そっと、手をつなぎ、墓前で報告する。


 杏里と共に生き、杏里と幸せになるよ。

ばーちゃん、俺は今も幸せかもしれないけど、これからも杏里と一緒に幸せになる。

もし、俺がばーちゃんに会う時が来たら、伝えたい事がある。


 俺は杏里と一緒に生きて、幸せでしたって。

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